orion
□CALL
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『ごめん、今飲みに行ってる!』
『山ちゃん明日何時だっけ?』
『早かったら先寝てていいよ』
立て続けに3つ送られてきたメッセージ。遅いと思ったらやっぱりか。
もう家の近くまで来た、とかいう連絡かと思ったのに、これじゃここに帰ってくるのは日付が変わる頃だろう。
『了解。』
『帰り、気を付けてな』
ちぇ、と思ってわざと素っ気ない返事をした。
別に、明日がどうとか関係なく起きて待っててほしいって言われたら待つのに。
なのに、
「先に寝てろとか、言うなよな…。」
まるで、俺がいてもいなくても同じみたいじゃんか。
カチカチ、と秒針の動く音だけがただ規則的に響く部屋。
裕翔が食べるはずの料理は透明なラップに包まれて冷たくなってしまっている。
こういうときに思い知る。
俺ばっか好きだ、ってこと。
俺のほうから好きになったんだから、こうなることは予想してた。好き、とかそういうのって差があるもんだって。
分かってて告白したし、時間をかければかけるだけ縮むもんじゃないってことも覚悟してた。
けどやっぱり、改めて実感っていうか、突き付けられる。
「俺のこと嫌になったらすぐに言えよな、」
「っえ?なに急に?どうしたの?」
「ずるずる中途半端に引き摺りたくねぇし。“やっぱメンバーに戻りたい”とかなったら…言って。」
「もう、急にどうしたの山ちゃん。俺がそんなこと言うわけないじゃん(笑)」
付き合い始めてすぐの頃、そう言って笑った裕翔。
いつか、来るかもしれないその日が怖くて仕方ないなんて、言えるわけがない。
既読の文字がつかなくなったメッセージを眺めて、ただ時間が過ぎるのを待った。
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ピンポーン……
インターホンの音で目が覚めた。
ソファで寝ちゃってたせいで腰が少し痛い。
寝ぼけながら見た時計は夜中の1時を指していた。
重たい体を叱咤してなんとか起き上がる。その間にもインターホンがランダムに鳴らされてる。
裕翔、だよな…?
鍵持ってないのか…?
「はーい……」
連打されるその音に若干怯えながら玄関の鍵をあけて扉を押し開いた。
「おかえ……、 っぅわ…!」
裕翔らしきシルエットが見えた、と思った次の瞬間、雪崩れ込むようにその体が倒れてきて、俺は咄嗟に支えきれずにそのまま玄関に尻もちをついた。
「ぃっった…。も、なん…、」
「っんはっ(笑)やぁまちゃ〜〜〜ん」
「っ…!酒くさ…っ」
「っふ…(笑)だしょ?はははっ(笑)」
「…っ…、ゆうと、酔いすぎ…。」
俺の体にのしかかったままふにゃふにゃと笑う裕翔。体中から濃いアルコールのにおいが漂って、心なしか体温も熱い。
でもおかげでついさっきまで感じてた寂しさなんて一瞬で消え去っていく。
こんなべろんべろんになっても俺のこと忘れないで帰ってきてくれたことが嬉しくて、自然と頬が緩む。
「もぉ…、裕翔…ぉもい…ってば」
「ふふ、やまちゃん…ただいま…」
「…おかえり。もーどんだけ飲んだの?こんな酔うの久しぶりじゃん、」
「んーーー…わいんさんぼんあけた」
「ワイン3本?何人で?」
「んぇー……。」
「まさか一人じゃないよな?誰かと飲んでたんだろ?」
「…………。」
「…?裕翔?」
寝ちゃった?
ぐったりと俺の肩口に顔を寄せてるから顔が全然見えない。よっこいしょ、と体を起こしてなんとか顔を覗き込んだら目はしっかりと開いていた。
「なんだよ、起きて___ん…ッ」
起きてんじゃん、って言おうとした唇が塞がれた。
こじ開けられた口の隙間から熱い舌がぬるりと入りこむ。そこから裕翔が飲んだんだろうお酒の味が流れ込んでくる。
「ん、ん…っ、っ…!」
息を吐こうにも口内で暴れる舌で唇が離れない。
後頭部に大きな手がまわって、ぐっと力がこめられたら比例してまた深くなった。
っ…く、るし…っ/
ドンドン、と拳で裕翔の胸を叩く。
そしたらほんの一瞬唇が離れて、慌てて吐き出した息も飲み込むようにまたキスされて。
「〜っ…ん、んぅ…っ…ふ…!」
「っは…ふ…。」
「ッぷは…!!っは、はぁ…っ、裕t…んっ」
あぁ…酸欠だ、頭がぼーっとしてきた、
玄関で二人して倒れ込んで、なにしてんだろう、
滲む視界の真ん中にうっすらと目を開けてキスをする裕翔が映る。キスするたびに香るお酒のにおいと味に、俺まで酔ってしまいそうで。
唇が離れる頃には俺の体からはすっかり力が抜けていた。
「〜〜っ……。ゆう、と…?」
「…………。」
「も…どうしたんだよ、こんな、急に…。眠いの?ベッド行けそう?」
突然しゃべらなくなった裕翔。でも相変わらず目だけはどこか獣のような光がゆらゆらしてて。
「ほら、裕翔!立って。しっかりしろって、」
「……りょうすけ、」
「…もぉ、なに?」
いいかげん俺も寝たい、と少し苛立ってきたのもあって声が冷たかったからかもしれない。
それか、待ってなくていいって言われてたのに待ってたのが悪かったのかな。
だから、あんな風に、したのかも。
「ゆうと、俺もう…___っ!?」
立ち上がろうとした腕が思いっきり引っ張られてフローリングに肩をぶつけた。
でもじんとした痛みをそこに感じた次の瞬間には、俺の腰に裕翔が馬乗りになっていた。
「っぇ、ちょ…裕翔…!?」
「………、ごめん、」
「ぇ…なに、が…ぅあ…ッ!?」
一言ぼそりと謝ってから俺のTシャツを胸まで一気にまくり上げて、裕翔は片方の突起に噛みついた。
ギリ、と歯を立てられて切れるような痛みに思考が停止して、それから遅れて涙が浮かんでくる。
「ぃっ…!!いた…っぃたい、裕翔…!」
「…。……っ、ん、」
「っ…ぁあ…、ぃ、た…ゆ、と…なんで、」
上手く息ができない。
俺を見下ろす裕翔の顔は今まで見たことのない暗さを灯した獣みたいで、怖いと初めて思った。
俺の問いかけには答えず、もう片方の乳首も口に含んで今度はキツく吸い上げる。
強すぎる刺激のせいで目の前に火花が散った。
「やぁ…ッ、裕翔、や、だ…っなんで、こんな…っぁあッ」
「…………。」
なんでなにも応えてくれないんだ
怒ってるの?
俺裕翔を怒らせるようなこと、
なんでだ、なにがだめだった?
なんで、こんな、責めるような…。
「や、ぁ…っ!ぃたい…っゆうと、やめ…ぁん…ッ」
痛みと快感と悲しさが全部ない混ぜになってもう訳が分からない。
涙と汗でぐちゃぐちゃで、
打ちつけられる腰の動きに揺さぶられ続けて、しばらくしたらもう吐き出すものもなくなって。
それから俺がドライで達するようになってからも裕翔は貪るように体を繋げて。
俺はいつのまにか意識を手放していた。
つづく