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□放課後トリップ
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「…あ、」




隣の知念が小さく声をあげた。

もたれかかった窓枠に腕を交差させて、あごを乗せながら俺をちらりと見る。




「ん?」

「あの人、いるよ」



ちょんちょん、と指をさした先はグラウンド。手にもっていたほうきがするりと床を滑ってカランと甲高い音をたてながら落ちた。




なんでもないことのように拾って、振り向く。



知念はそんな俺を見てくすりと笑った。






「おーい!!ボールそっち行ったー!!」



鮮やかなオレンジのビブスがグラウンドを駆けていく。




シュートを決めた同じオレンジのビブスを着た人とハイタッチをしながら泥だらけの顔で笑ってる。




「元気だねぇ」

「……な。」

「あ、見て。あれ全部ファンかな。」



そう言って知念が指した方には、きゃっきゃと騒いで黄色い歓声をあげてる女子たちの列。


中には「だいきくんがんばって!」って書かれた紙を振ってる子までいる。




「さぁーそうなんじゃね?」

「……涼介もあそこ行ってくる?」

「………馬鹿。」




にんまりと笑う知念を軽く小突いてほうきを持ち直す。

さっき集めたはずの埃が散らばっていて知らず「はぁ、」とため息が出た。





「ね、話しかけたりしないの?」

「…しねーよ」

「えーつまんないの。教室はいつも見るくせに」

「うっさいな!//知念も早く掃除しろよ!」

「僕もう終わったー」

「……っ、//」



なんの汚れもついてない新品のぞうきんを振りながらスン、と鼻をすすった。




「涼介ーはやくー」

「お前を待ってたの!もー」



チェック表に適当にしるしをつけて教室をあとにする。肩に担いだ鞄がやけに重く感じた。





「部活とか、やってないのかな」

「……テニス、らしいけど。」

「へぇー涼介も入れば??」

「………そんな、来ねぇらしいし、」

「なんだーじゃあ意味ないね。サッカー部、入ってくれないかな。」

「……ん。」



普段そこまで饒舌じゃないくせいに俺がこの話題だとあんまり強く出れないのを知っていて知念は楽しそうに話す。



2人分のローファーのかかとが廊下のタイルに当たって、コツコツとリズムを作る。





知念が軽やかに階段を下りて、昇降口に駆けて行った。



その、後ろ姿に問いかける。



「知念、今日は体操ないの?」

「今日はおやすみ〜」

「なんで?」

「先生が出張ー」

「へぇー…そんなのあるん、…っ!」



ドン、


言いながら靴箱から顔をあげたら、肩に軽い衝撃。


視界いっぱいに広がるビブスのオレンジ。15の黒い数字。



「―――っすみませ、っ!」




ごと、って音がして床に青いポカリのスポーツボトルが落ちる。

慌てて俺が拾ったそれを受け取った手に、どく、と心臓が跳ねた。




「ぁ、ごめん!」



手首に巻かれたオレンジと赤のミサンガ。



「…っ、ぁ、」

「ありがと!」

「いぇ、」



弾けるみたいな笑顔で俺からボトルを受け取って駆けていく。


汗で濡れた髪から少しだけ見える耳たぶに、黒い星のピアス。間近で見たのは初めてだった。




「…っ…。//」

「…りょうすけ、顔。」

「ぅぅうるせぇな…!!////なんだよ!!」



一部始終をすぐ前で見てた知念が今度は呆れた顔で俺を見る。

体中の熱が集まったみたいに熱い頬を見られたくなくて、咄嗟に怒鳴ったけど余計にダサい。



「…っ帰るよ、ほらっ」

「もぉ、待ってよぉ」



のろり、歩き出した知念を追い越すように自転車に飛び乗った。





つづく
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