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□光り。
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『……涼介。』
『なに泣いてんだよ(笑)』
『いつからそんな泣き虫小僧になったんだ…!(笑)』
『しゃーねー、光くんが慰めてやろっかな』
。。。。。。。
。。。。
。。。
「………っ…、」
見上げた天井が霞む。
ぽたり、と目尻から零れた涙が伝って耳の中を濡らした。
久しぶりに見たあの人の夢は、まだ、記憶と同じ鮮度を持っていた。
[ 光り。]
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閉じられたシャッターを押し上げて、暗い店内に入る。
昨日淹れたばかりのコーヒーの香りが室内にふありと香った。
机の上に逆さにされて置かれた椅子を拭きながらおろして、開店の準備を進めていく。
ふ、と息を吐いて見た窓の向こうは暗い雲がたちこめていた。
「(傘、持ったかな……。)」
日が昇ると同時に俺の部屋を出て事務所に向かった裕翔が咄嗟に思い出される。
玄関に傘置いたままだったっけな…、
『かさ、もった?』
と、一言メッセージをタップして、店のブラインドを開けた。
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「あ、忘れた。」
なんとか、今月号のコーナーの写真を選別し終えてほっと一息ついてた頃。
スマホに表示された通知を見て、ぽろりと零れ出た。
『忘れた〜雨ふるかな』
きっと今頃開店準備をしてるんだろう、返事はすぐには返ってこない。
しばらくして、
『今日は何時終わり?』
のメッセージ。
もしかして、届けてくれる…とか?
ちょっぴり期待しつつ『21時!』とタップした指が早くなる。
『分かった、会社まで行く』
やった!
表示されたメッセージに小さく心の中でガッツポーズ。
「なんだー中島、女かー?」
そしたら後ろから煙草の煙と一緒にデスクが覗き込んできて。
慌てて画面を暗くした。
「ちっがいますってー!」
「いいよなぁ、朝っぱらからなぁ」
「だから、違うって言ってんじゃないですか…!」
しっしっと追い払って、パソコンの画面に隠れるようにしてもう一度スマホを見る。
涼介からは新たにメッセージが2件、入っていた。
『帰り、店寄る?』
『晩飯食べるなら昨日の分残しとく』
昨日の、っていうとハヤシライスかな。
昨日は涼介の家に着いてすぐ、もつれこむみたいに寝室に行ったから残り物が消費できてない。
『食べる!寄る!』
立て続けにメッセージをタップしながら、パソコンの電源を入れた。
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