orion
□heal
1ページ/2ページ
「ただいまぁー……」
バタバタと靴を脱ぐ音がしてかけていた火を弱めた。フライパンにフタをして玄関に向かう。
「おかえり、」
出迎えたらそこには疲れた顔をした裕翔がいた。
「んぁー……、」
かばんを受け取ろうと伸ばした手に裕翔の手が重ねられて、ちょこんと肩にあごが乗せられる。
Tシャツの襟口から微かに煙草のにおい。接待に付き合わされたのかもしれない。
だいぶ疲れてるな…。
「裕翔、お風呂入る?」
「んー…いぃや、明日の朝入ろうかな…」
「分かった。食べれそう?一応作ったけど…」
「あーどうしよっかな、明日でもい?」
「うん。日持ちするし、大丈夫。」
「そっか。ごめんな、」
ううん、と首を振ったらきゅ、と柔く抱きしめられて解放される。
裕翔が自分の部屋に戻ってる間に、俺はキッチンに戻った。
出した料理全部にラップをかけ終わる頃、ラフな部屋着に着替えた裕翔がリビングに来て、そのままベッドに倒れ込んだ。
「ぁー……つかれた、」
枕に顔を埋めてるのかくぐもった声。
俺も寝よっかな、と思いながら片づけてたら、
「……りょーちゃーん」
ベッドから小さな声。
見ればちょいちょい、と手招きをしてる。
普段は絶対言わない呼び方がくすぐったくて、変なのと笑いながら、吸い寄せられるようにベッドへ近づいた。
うつ伏せになって目を閉じてる裕翔の顔のすぐ隣に腰かける。
「なに?」
「つかれたよぉ」
「ね。大変だったね」
「うん……。」
無造作にはねる黒髪を優しく撫でたら、膝に頭をのっけてきた。
甘い重みと体温がじわりと伝わる。
「りょうちゃん、」
「っふ、なんで急にそんな風に呼ぶの?(笑)」
「分かんない、呼びたくなった」
「裕翔、へんなの。(笑)」
くすくすと笑ったら、ぱちりと目を見開いて唐突に起き上がった。
そのままベッドについた俺の手に自分のそれを重ねて、唇が触れるぎりぎりまで顔が近づけられる。
でも肝心のキスは与えてはもらえない。
「……もぉ、」
仕方ないなぁ、小さく息を吐いて俺からキスをした。
ちゅ、と触れるだけのキス。
いつもは裕翔が顔を傾けて俺にキスをするけど、今日は俺がそうするほうみたい。
微かに首をかしげて、ちゅ、ちゅ、と口づける。
目をあけたら、少し眠たげなとろんとした瞳に俺が映っていた。
「っ…ふ、」
「……ん…。」
最後に少し長めにキスして体を離す。体が少し、熱い。
「…どう?」
「んー……足りない。」
ちょっとむっとしながら、裕翔はバフっとベッドに体を沈めた。
求めるように指が絡められる。
「じゃぁ…今日は俺がしてあげる。それでいい?」
「ん。」
こく、と頷いた裕翔にゆっくりと覆いかぶさって、またキスをする。
口付けたら、迎え入れるように薄く唇が開けられて、その隙間に舌を伸ばす。
ちゅる、と唾液が絡む音がして一気に体に熱がこもった。
「……っん、…っ」
「ふ………。」
微かに漏れ出た声が恥ずかしくて、キスでごまかした。
裕翔の顔の横についた手が、無意識にシーツを握ってて、そこだけ皺になってる。
「、っ…ん、ぅ…っ」
裕翔いつもどうやってしてたっけ…
いつも俺がされるほうだから、どんな風にしたらいいのか分かんない。
裕翔とのキスは全身の力が抜けちゃうくらい気持ちよくて、我慢したくても声がでちゃうのに。
頭の中で必死に裕翔のキスを思い出そうとするけど、どろどろに溶けた思考じゃもう役に立たない。
「っはあ……。」
すぐ息が苦しくなって、唇を離したら裕翔も息を吐き出した。
熱い息が首筋にかかってぞわりと鳥肌がたつ。
「裕翔……、ッん!」
するりと服の中に入り込んだ左手が、腰を撫で上げる。
そのまま熱い手のひらが上下に脇腹を這っていく。ゾクゾクと背筋を快感が走り始めて、俺は慌ててその手を制した。
「っはぁ…っ、裕翔…、だめ、」
「…うん。」
「っぁ…ちょ、っと…んん…ッ」
だめだっつってんのに…っ
しゅるりと裾から入ってきたもう片方の手が、言うこと聞かずに悪さをする。
触れる度、びくんっと跳ねる俺の体を楽しむように、止まらない手。
あぁもう…力入んなくなってきた…
ベッドについた手にだんだんと感覚がなくなってくる。
「っ…、っ…!ぁ…っ」
「涼介…」
「も…っ、裕翔!」
胸まで這い上がってきた手をなんとかとどめる。すっかり体が熱くなっていた。
「はぁっ…。今日は、俺がするっていってんじゃん…。裕翔は大人しくしてて、」
「…ふふ、ごめん。」
言えば名残惜しそうに服の中から手が抜かれる。触れられたところだけ、ビリビリと痺れが残った。
たまには俺だって主導権握りたい。
重く感じる自分の手になんとか力を入れて裕翔の服を脱がせる。
均整のとれた体が露わになって、星座みたいに散らばったほくろが見えた。
俺も自分の服を脱いでベッドの下に投げた。