orion

□28と53
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「で、どこ行くの?」

「んー内緒。」

「えー。教えてくんないんだ」

「そう。着くまでのお楽しみな」

「分かった。」




楽しそうに運転する将暉。

車はどこに向かってるのかバイパスを走り出した。




ハンドルを握る姿がかっこいい、とか言えたらいいのに。


なんなら目線は窓に向けたまま俺に話しかけるだけでもなんか「うわっ」ってなっちゃうのに。




結局ひとつも言えずに将暉の話に耳を傾けていた。




「なんか音楽かける?好きに触ってな」

「ううん、今日はいいや」

「JUMPも一応入ってるで?(笑)」

「いいよ(笑)将暉の声だけで十分。」

「………。」




え?
なかなかかえってこない返事。



急に黙り込んだ将暉を不思議に思って見返したら、なにかをこらえるみたいな顔をしていた。




「…?将暉?」

「……今あかん…。」

「え?」

「キスしよか思たけど今したら絶対事故る…。あかん…。」

「ぶっ(笑)」



なにかと思ったらそんなこと?(笑)


真面目な顔してそんなこと言うからおかしくて思わず吹きだしてしまった。




「あとな、涼介。」

「ん、なに?」

「あんま見んといて、緊張する。」

「緊張してんの?」

「してるわっドきんちょーや」

「そう?全然見えないけど」

「見えへんようにしてる」

「ははっ(笑)そっちばっか気とられて事故らないでね?」

「分かってるわっ」




ハンドルを握ったまま べ、と舌を出した将暉。


それから言いつけ通り、俺も流れる景色を見たままゆっくりと会話した。

















「…すけ…涼介、」



ぽんぽん、と頭を撫でられて目が覚めた。車はいつのまにか止まってる。


もうすっかり夜になったいた。





「ぁ、れ…?ごめん、俺寝ちゃってた…、」

「いいよ。疲れてたやろし。」



あぁー失敗した。せっかく二人っきりだったのに、寝ちゃうとか…。


でもそんなのたいしたことないって言うみたいに将暉は楽しそうにしてる。




「で…ここ…は……、




どこ?って言おうとして目の前の景色に言葉を忘れた。





「な?綺麗やろ?」



得意げな将暉の声。



海の向こう側に立ち並ぶ工場の光が星みたいに煌いていた。




「すご…。」

「一回連れてきたいなーと思ててさ。俺のお気に入りの場所やから。」



しばらく返事するのも忘れて見惚れてたらぱっと将暉が顔を覗き込んできた。



「気に入った?」

「っぁ…っ…うん!すごいな、見惚れてた」

「よかった。たまに来よか。二人で」

「…っ…うん、」

「よっしゃー」



にかっと笑う将暉。ほい、と手を差し出されて重ねたら、ぎゅ…と握り返される。この時間がいつまでも続けばいいと思った。




「将暉、ありがとう」

「どーいたしまして。気に入ったらなにより。」

「次は俺がどっか連れていくな、将暉のこと」

「まじ?楽しみにしてるわ」




どこがいいだろ、と頭の中で考えてたら急に繋いでた手が解けた。


かわりに将暉はハンドルを握る。




「……将暉?」

「そ…そろそろ帰ろか。もう時間も時間やし、涼介も明日早いやろ。家まで送る」

「え、でも…。」




次いつこうやって会えるか分かんないし、今日だってゆっくり話せてたのは最初だけだった。

それもこれも俺のせいだけど…。




でも、もうちょっとここにいたい。

何にも話さなくても将暉と将暉のお気に入りの場所にいたいよ。





俺は名残惜しさと解かれた手の寂しさに少しわがままを言った。





「まだもうちょっといよ?大丈夫だから」

「いや…けど、風邪ひいても困るしさ、はよ帰って休んだほうが…」




なのに、将暉は急ぐように帰る準備を始めたから、





「〜っ…まだ帰りたくない!」






ついカッとなって大きな声を出してしまった。



馬鹿、これじゃ本当にわがままなヤツだ。
まるで公園にいる子供みたいな言い方。



言ってからまずい、と思い直してももう取り消せない。

案の定将暉は呆れて黙ってしまった。いや、怒って、る…?





耳が痛くなるような重い沈黙に耐えきれなくて、




「−っごめん、帰ろっか。
わがまま言って、ごめ_____」




紡いだ言葉が将暉の唇に飲み込まれた。




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