orion

□こっちを向いて、微笑んで。
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「ちぃ、これさ、」




俺のすぐ隣に座ってた知念。
いつもなら隙間なくぴたりと俺にくっついてるのに、今日は珍しく少し距離があった。



だからそれをつめるように座り直して顔を覗き込んでやる。





「ちぃ?」

「……ん」



てっきり、「なぁに?」なんて甘い声を出していつもの笑顔を見せてくれると思ってた。



けど、返ってきたのは驚くほど感情のない声。




わざと俺に顔を見せないようにしてるのか目さえ合わない。




なんだ、拗ねてんのかな。





「ちーぃ?なぁ、」

「……大貴ー。」

「っ、」




俺が肩に手を置こうとしたタイミングで、知念は大ちゃんを呼んで席から立ち上がった。


俺になんて目もくれず、距離が離れていく。





なんで?



「ちょっ…知念!」



あまりにも不自然な知念の行動にムッとした。俺が呼んでんのに、失礼だろ、なんて思って。



大ちゃんと楽しそうに話す知念のもとに大股で歩いていく。


知念は大ちゃんのほう向いてるから気付いてないみたいだけど、大ちゃんとは目が合った。





「あ、山田どうしたの」



でも大ちゃんの声に返事できるほど余裕なんてない。イライラして、知念を振り向かせることばっか頭を占領する。




「なぁ、知念!」



華奢なその腕を掴んで振り向かせる。知念の顔は俺と同じようにムッとしていた。




「なに?」

「なにって、俺さっき呼んでたじゃん。なんで無視すんだよ」

「……あぁ、そうだった?ごめんね。」




まただ。なんの感情も入ってない言葉。
棒読みのセリフみたいなそれが耳にベッタリ貼りつく。



意味分かんねぇ。なんで急に、しかもなんで俺?


いよいよ我慢できなくて、声にも苛立ちが現れてしまう。





「お前、なにがしたいんだよ。」

「なにがって…なんのこと?僕ごめんって言ったよ。これ以上どうしてほしいの。」

「っ、っ…は…?お前、」


もうなんて返していいか分かんない。ただただイライラして無数の棘に胸を掻きむしられるような痛みが走る。




すぐ隣で俺たちを見てた大ちゃんも不穏な空気を感じ取って焦りだす。




「おいおい、どうしたどうした!やまちねでけんかとか珍しいな(笑)」



ちゃかすようなその声。
俺をなだめようとしてくれたことだと分かってても、怒りは増すばかり。




「っ、お前には関係ない。」

「山田、落ち着けよ…知念も___」

「ッ関係ねぇっつってんだろ、黙ってろよ!」




シン………




はっとしたときにはもう遅い。
俺の声にスタジオは静まりかえっていた。




「っ……、」

「…っすいません!ただのコントなんで!気にしないで作業してください(笑)」




慌てて大ちゃんが声を少し張り上げて周りにごまかす。スタッフのみんなもメンバーも安心したようにゆるゆると動き出した。





「…っ…大ちゃ…ご、ごめ、」

「いいって。だいじょぶだいじょぶ」



水をぶっかけられたみたいに体の熱がどんどん冷えて、かわりに罪悪感がどろどろとただれてくる。



大ちゃんの顔も見れなくて、知念の目も見れなくて、ただ自分の足元ばかり視界に揺れる。




「ま、たまにはな!大丈夫だって。知念もなにがあったか知んないけど山田の相手してやれよ〜(笑)」

「うん。」



ぽんぽん、と俺の肩をたたきながら知念に声をかける大ちゃん。小さくいつもの知念の声で返事が聞こえる。



大ちゃんには返事すんのか、なんてまたくだらないことが頭に浮かぶ。




「じゃ、撮影すんぞーみんな呼んでくるな」



そう言って楽屋へと向かった大ちゃんを見送る。


正直行かないでほしいとか思ったけど、それが伝わるはずもなく。




結局、その日知念とは一言もしゃべらずに撮影を終えた。
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