orion

□熱帯夜
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 _______触りたい。








視界の奥に映る姿を見てもう何度目かの欲求が頭をもたげる。




地方での撮影に入って数週間が経った。


白いカーディガンの袖から少し出た指が髪を弄ぶ。あの髪を撫でてやったのはつい何週間か前のことなのに、もう感触を思い出せない。





ちょん、と上を向いた柔らかそうな唇。

まるでアイラインをひいているかのようなくっきりとした瞳。

少し鼻にかかったその声。





「(触りたい……。)」




頭の中ではもう服なんてとっくに脱いだ涼介が俺を見て笑ってるけど、現実では悲しいほどその肌は衣装に隠されていた。




最初のうちは一か月ぐらい、たいしたことないと高を括っていられたけど、



今は正直、





「キツイ……、」

「え、菅田くん大丈夫?」

「っあ、すんません、独り言っす」

「そう?」




俺の声に反応して隣にいたスタッフが顔を覗き込む。きっと今の俺はひどく飢えた表情をしてるんじゃないだろうか。




「次、山田くんとのシーンだから念入りに調整しようね」

「…はい。」




返事をしながら教室の端に目をやったら、ちょうど涼介も俺のほうを見ていて。






「(……ぁ、)」





ひらり、袖から出た手が振られる。にっこり笑うその顔に、また無性に熱がこみ上げてきて俺は咄嗟に目をそらした。



























「(……目そらされた…?)」




振り返してくれると思っていた手は上がることなく、将暉はすぐ隣のスタッフさんと話し込んでいる。




将暉は撮影が始まるとすごく冷たく俺に接する。

ほんとは普通なんだろうけど、普段が甘すぎるから。



スタッフや他の共演者の人たちがいる前でいつも通り振る舞うのも不可能だって分かってはいる。だけど、



寂しい。



甘えたりはできなくても、せめて言葉を交わすくらいいいじゃん。
なんでそこまで、と心の中で毒づいたのも一度や二度じゃない。





こうなることが分かってるから撮影前日に将暉の家に行ったのに…結局我慢しちゃってる。




「(馬鹿将暉め……。)」





いつのまにか下を向いてしまっていたことに気付いて顔をあげる。



そこには、腕を組んで机にもたれかかる将暉がいた。


あまりに絵になりすぎてて、赤い髪が照明の光を受けていつもより鮮やかに見える。





「……っ、」



瞬間、胸が苦しくなるようないつものあの感じ。長い腕もあのまなざしも。




好き、と心が勝手にしゃべり出して止まらない。



抱き締めてもらいたい。耳元で名前呼んで、力いっぱいぎゅうぅ…っていつも家でするみたいに。





でもそんなのここで叶うわけなくて。


どうしようもなくて自分の腕で体を抱きしめた。






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