orion

□熱帯夜
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「乾杯ー!」



グラスがカチンと当てられて、いたるところで乾杯の合図が鳴る。



貸し切りにした状態の店内は少し暑く感じるくらいだった。





「お疲れ様〜」

「あともうちょいだねー」




撮影も残すところあと1週間。
今日はスタッフも含めたキャスト全員で集まった。


乾杯を終えて、みんな座敷の席に着いたらさりげなく将暉が俺の隣に腰を下ろした。

なんでもないことのようにするから一瞬反応できなかったけど、後からじわじわと胸が鳴り始める。





「カルマ、これ食べた?」

「どれ?あぁ、美味かったで」



向かいに座っていた生徒役の男子に話しかけられて答える姿は中学生とは程遠い、大人の男に見えた。





「涼介、次なに飲む?」

「あぁ…えっと、メニューど、……っ、」




畳みの上に置いてたはずのメニューを手探りで探そうとしたら、上からふわりと重ねられた手。


ごつごつと骨ばった大きなそれが誰のものか、見なくたって分かる。

だってこの一か月ずっと待ち望んでたものだったから。




「……涼介?」




ゆるり、指が絡められてさらに熱が上がる。呼ばれた名前に返事するのがやっとだった。




「〜っ…、っと…サワー系、ある?」

「おう。じゃあこれでいい?」

「…っぅん」

「ん。じゃあこれとこれ頼んでー」




前に座るキャストのみんなとメニューを引っ張り合いながらわいわいと騒いでる将暉。


テーブルの下で手が繋がってるなんて顔だけ見たら絶対分からない。





なんでこんなこと急にするんだよ。撮影中はろくに話もしないくせに…、、


心の中でそう文句を言ってみてもやっぱり嬉しいものは嬉しくて。握り返したら、ちらっと一瞬だけ将暉も俺を見た。




それからまた何事もなかったみたいに会話を続けて、今度は一本一本の指をなぞり始めた。

触れられたところだけどうしようもなく熱くてたまらなくて。






俺は冷静を装うのに必死で、気を紛らわそうと手にしたグラスを一気に煽った。

















まずい。




ちょっと目を離せた隙にこんなことになってたとは。





「……山田酔いすぎだろー!」

「はぁ〜?ばかにすんらよ、なめんらよ」

「いやいや、呂律まわってねぇし(笑)」




手は相変わらず繋いだままだけど、その体温が明らかに違う。いつもより熱いし、何より顔が赤い。




「おい、涼介。酒飲んだんか?」

「まさ、き?」

「うん。涼介、み、ず……」



言おうとした言葉を忘れた。



「……っ、」

繋いだ手とは反対の手がするりと唇に持っていかれて。


俺を熱のこもった目で見つめながら指でゆるく唇をなぞる涼介。



「〜っ!、」


かっと体に熱がのぼる。



涼介の、モノ欲しげなとろりと溶けた目が俺を見つめる。



「将暉……、」

「っ涼介、!酔いすぎや、」

「将暉、ぁつい…」

「〜ッ!」



はぁ、と悩ましげに吐き出された息にすぐに限界が来た。




「涼介、立って」

「っぇ、ぁ………」

「あれ、カルマどうした?」

「ごめんな、ちょっと涼介気分悪いっぽいから先ホテル戻るわ」

「あーそうか。じゃあ明日な」



心配そうな顔をして手を振るみんなにもそれなりに挨拶して、店を出る。


肩を抱いた涼介の体が信じられないくらい熱い。




「将暉……っ、ぁ、どこ行、」

「ホテル。帰る」


それだけ言って足早に歩き出す。涼介の足がもつれそうになってるのも分かってるけど、歩幅を合わせてあげられるほど今は余裕ない。



泊まり込みしてるホテルに着いてすぐ、自分の部屋のルームキーを扉に突っ込んで中に雪崩込む。



「ッ……、涼介、」

「……ぁっ…!」



ベッドに押し倒して唇を奪った。




「ッン…!ぁ、ふ……っ」

「っは…っ…涼介……」




アルコールのせいで熱くなった口内を舌で暴いていく。涼介のほうからもゆるく舌を絡めてきて余計に熱がたまる。



このまま最後までしてしまいたい。でも、明日もその次の日だって、仕事がある。



止めないと、今すぐ、やめないと____

このままじゃ…絶対、




「ッあ、将暉……っ」

「〜〜ッ…!」




掻き抱くように涼介の手が首にまわされて、我に返った。無理やり涼介の体を引き剥がしてベッドから飛び退く。



濡れた唇を手の甲で拭ってなんとか自分の体をねじ伏せた。





「ま、さき…?」

「〜っ…悪い、俺……、ごめん」




茫然と俺を見る涼介の目を見ていられなくて、逃げるように部屋を出た。
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