orion

□水中花火
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「ねぇ、どうしても…だめなの?」

「ぅん…ごめん。」

「弟くんって…もう高校生でしょ?電話一本来たぐらいでそこまで過保護になる必要あるかな……、」

「……、、ごめん。」

「ごめんごめんって裕翔くんさっきからそればっかり、他に言うことないの?」

「………。」

「…もういい。帰る。当分顔見たくない」



それでも黙ったままの俺を見て持っていた鞄が投げつけられた。


「ブラコンッ!!」



吐き捨てるような声と一緒にガタン、と扉が閉まる。


むせ返るような香水のにおいがまだ部屋中に残っていた。






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【水の中で燃える花火だとしても】


side: yuto








着信:1件

涼介




液晶に映る通知をもう一度確かめて部屋を出た。



この番号からかかるってことはあのケータイをまだ使ってるんだな。







『辛くなったら、これで電話して。』

『ケータイ…?』

『ん。涼介の、母さんに没収されたでしょ?』

『…ありがと……、』

『しかも、俺とお揃いっていう特典付き。どう?(笑)』

『っ…きもちわりぃ〜捨てようかな』

『あ!お兄ちゃん泣いちゃう〜〜』

『ばか(笑)』





あははは、と笑った目じりはほんの少し濡れていた。




あれから俺が家を出て今年でちょうど2年が経つ。あの日から母さんとは連絡を取ってない。





アパートを出たらぽつぽつと小ぶりの雨が降ってる。

駅に着くまでに間に合うかな…。



傘持って来ればよかった、と後悔した矢先、雨で霞む赤信号の真下に大きなスポーツバッグを背負った制服姿が見えた。





「……っ…、」




雨に濡れて佇む姿を見て、どくっと胸が跳ねた。

信号は切り替わってすぐなのか、いくつもの車が過ぎ去っていく。





ぽつぽつと降り出す雨の中で、半年前よりまた綺麗になったなと想った。





それからただじっと信号が変わるのを待っていたら、ふいに顔をあげた涼介。俺を見て目を丸くする。


どうしていいか迷ったあげく、少し手をあげたら、



「ぇ、おい…っ」


あろうことか涼介はまだ赤信号で車も横切る横断歩道を走り出した。

ブーッと甲高いクラクションとブレーキ音が耳をつんざく。




泣きそうな顔をしながら走ってくる涼介が滑りこむように俺に手を伸ばす。


その手を取って抱きかかえた瞬間、すぐ後ろの車の運転手の怒鳴り声がどこか遠くで聞こえた。



「ッッ…!」

「ぃった…っ」



涼介を抱えたまま濡れた道路に尻もちをついた。鈍い痛みがゆっくり伝わる。





「はぁ…もう…赤信号だって___「裕翔…ッ!!!」



苦しいほど縋りつく涼介。道行く人が俺たちを怪訝な目で見ながら歩いていく。



冷たくなった体が腕の中で震えた。




「涼介、」

「……でんわ、電話ごめん、」

「なんで?いいよ。」

「今朝…母さんに、」

「いいから。俺んち行こ、ここじゃ目立つ」





濡れた体を抱き起して立ち上がる。傘なんて持ってても結局させなかったな、と歩きながら思った。



俺たちの繋いだ手を見て、すれ違った人の何人かがまたぎょっとした顔。



「っ…、」



涼介もそれに気づいて咄嗟に手を振り解こうとしたけど、俺がそれを許さない。


かわりに指も絡めて繋ぎ直したら、涼介までぎょっとした顔になったのがおかしくて。




「っふふ(笑)」

「ぁに…なに笑って…、」

「ほら、走ろ、」

「ぁ、ちょ…っ」







ビルの間に見えた向こうの空はまだ黒く立ち込めていた。




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