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□嫉妬させる
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霊幻さんが壊れました。誰か助けてください。
なんか急に「JKの生気が足りねぇわマジ」とか言って後ろから覆いかぶさるように抱きついてきた霊幻さん。ぎゃああああとJKならぬ悲鳴を上げて必死に振り払おうとしたがびくともしない。重い。28歳の社会人がJKに襲い掛かるなんて明らかに犯罪だと思うんだけど、残念ながら今この事務所には私とその犯罪者しかいない。これは大ピンチである。


『もう本気で離してください霊幻さん!重いです!』
「嫌だね!こちとら毎日毎日マッサージばっかで疲れてんだよたまには癒しが必要なんだよ!」
『じゃあそこらへん歩いてるJKに抱きついてくればいいでしょ!』
「馬鹿お前、そんなことしたら捕まるだろうが!!」
『どうぞ警察に連行されてください変態!!!』


ぎゃあぎゃあ反論しても一向に霊幻さんは離れる気配を見せず。しまいには「俺が一生のうちに抱きつけるJKはお前しかいない!」とか意味のわからないことを言って腕の力を強めてくるものだからこれは本当に110番通報しないと駄目だと思った。だかしかしスマホは今カバンの中だ。万事休す。


「師匠、なんか外にまで声が聞こえてたんです、が……」


はいここでメシア。メシアご降臨。
天使の声にはっとして顔を上げれば、そこには紛れもなくモブくんという名のまごうことなき天使がいた。タイミングよすぎか、神か。あ、違うわ天使だったわ。
しかしながらそんな救世主モブくんは部屋に入ってくるなり今の私たちの状況を見て、そしてぴしりと固まってしまった。そりゃそうだよね。


『……ほら霊幻さん、一番弟子が引いちゃってますよ!』
「いくらモブでも名無しのJKパワーはやらんぞ」
『何言ってるんですかというかそれは困ります私が』


私だってモブくんパワー欲しいのに!できることなら抱き締めてモブくん撫でまわしたいのに!モブくんの前なら少しは自重するかと思ったけど、霊幻さんはぴったりとくっついたまま離れやしない。それどころか巻きついた霊幻さんの腕をどかそうと奮闘していた私の手を、彼はいとも簡単に絡めとったのだ。それをまた彼はさもモブくんに見せつけるかのように、その右手を高々と持ち上げてきた。ふおおおやめて!やめて霊幻さん!
私は助けを求めるようにモブくんに視線で訴えようとしたけれど、目が合ったかと思えばすぐさま逸らされてしまった。え、嘘でしょモブくん。メシア。


「どうだモブ、羨ましいだろう」
「……、」
「ふふん、お前もさてはJKパワーが欲しいんだな?」
『え、』
「そうだろう?モブ」


得意げな霊幻さんの声が頭上からモブくんへ向けられた。
え、そうなの?羨ましいの?モブくんにならこんな私のパワーでよければ泣いて喜んであげちゃうけど。大歓迎だけど。むしろ私の方がパワーもらっちゃう気がするけど。
霊幻さんの投げかけと共に再びモブくんへ目を向ければモブくんはびく、と体を跳ねさせて視線をうろうろ。そして「あ、う、」と口をぱくぱくさせながら頭を控えめに横へ振った。しかしながらその真っ赤な顔はまったくもって説得力がないというもので。

ずっきゅん。ずっきゅんだよモブくん。可愛すぎだよ。


「そうかモブはいらないんだな!じゃあ俺が独り占めするとしようか」
「あのー、」


しかしながらそんな変態整体師の戯言は、唐突に登場したお客さんによって強制終了を余儀なくされたのだった。(やっと解放されたよ……!)
ふう、と息をついて顔を上げれば再びモブくんとぱちりと目が合う。いつもと同じように笑いかけようとしたけれど、またすぐにモブくんがそっぽを向いてしまったせいでそれは叶わなかった。そのあからさまな態度にただならぬショックを受け固まる私には、この時モブくんがどんな表情をしていたかなんてもちろん知る由もなかったのだった。



モブを嫉妬させる
(アイツら意外と仲良かったんだな、なあシゲオ?)
(…………)
(……ほお?)




― ― ― ― ―
サブタイを『霊幻に捕まる』にするべきかと悩むくらいモブくんとの絡みが少ないうえに霊幻さんのキャラ崩れ……すみません。愛はあるんです。山ほどあるんです。あと一話完結とか言っておいて続きます。次はちゃんとモブくん出します!





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