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※心配する、の続き



「そんなわけ、ないです。こんなに僕のことを心配してくれる人なんて、今まで家族しか知らなくて、だから……嬉しいです、すごく」


その言葉をまるで噛みしめるかのようにモブくんはぎゅっと目を瞑った。そして再び目を開けるモブくんはやっぱり涙目で、私の胸はまた馬鹿みたいに締めつけられてしまう。


「でも僕のせいで名無しのさんを泣かせてしまった。師匠に女の人は泣かせちゃいけないんだって言われてたのに……ごめんなさい、」
『別にモブくんのせいじゃないよ。これは私が勝手に泣いただけだから……涙拭いてくれて、ありがとね』
「……、」


そう言ってモブくんに笑ってみせれば、しかしながら一方彼はどこか複雑そうな表情で私を見つめていた。一体どうしたのだろうか。もしかして私、相当変な顔してたとか。


「……僕、ちょっとおかしいみたいです」
『え?』


しかしモブくんは苦しそうに眉を寄せながら、なぜか私に向かって手を伸ばしてきた。そしてモブくんの右手は涙が伝う私の頬に触れ、そのまま今度はティッシュではなく自分の指でその滴を拭ったのだ。まさかモブくんがそんなことをするなんて当然ながら思ってもみなかった私は、ただただ彼を見つめ返すことしかできなくて。
そんな中モブくんはまるで熱に浮かされているかのようにその頬を染めながら、次々と溢れ落ちていく涙に視線を落としていた。


「っ、どうしてかわからないけど……名無しのさんの泣いてる顔は、もっと、見ていたいんです」
『……!!!』


女の人の涙は苦手だったはずなのに。こんなの、駄目なことなのに。
震えながらそう言いつつも、モブくんは確実に距離を詰めてくる。手は頬に添えたまま、彼はあろうことか強引に顔を近付けてきたのだ。びっくりしすぎて息が止まってしまった。

(こ、こんなモブくん、知らない……!)
私はありったけの力で、モブくんの顔を押さえた。ごめん、可愛いお顔を雑に扱ってしまって大変申し訳ないんだけれども、でもこれ以上は!これ以上は無理です!


『だっ、駄目だよモブくん、モブくんはよくても私はこんな顔見せられないから!』
「っ、む、」


あああやばい、モブくんの唇の感触が直に手のひらに……!どうしよう、でもこのまま離すわけにもいかないし。ひいいいモブくんの唇柔らかすぎて頭爆発しそう。
ひとり悶々としながらも必死に抵抗していれば、モブくんはようやく我に返ったように顔を上げた。そして状況を把握したのか慌てて私から飛び退き、赤くなっていく顔を隠すように俯いてしまう。


「すっ、すみません……!僕、名無しのさんが僕のために泣いてくれたんだって思ったら、その、なんていうか、」
『……っ、うん、大丈夫』
「あっ、でも、怪我はもう全然痛くないんです。心配してくれて……ありがとうございます、」


真っ赤な顔のままモブくんはそう言って、再びティッシュを取り出し私の目元へあてがった。しかしさっきモブくんを止めようと必死だったせいで涙は既に止まってしまっていて。だからもう大丈夫だよ、と私が笑いかければモブくんはあ、と声を漏らしてまた俯いてしまう。持っていたティッシュがぐしゃりと潰れた。


『これからは極力怪我しないで……っていうのは難しいかもしれないけど、でも本当に、無理はしないでね』
「っ、はい、」


モブくんはもう一度私を見上げて、そしてこくんと頷いた。その仕草がまた可愛らしくて思わず笑みが漏れてしまう。でもモブくんが無事で本当によかった。彼の超能力は相当強いと聞くから、簡単に負けることなんてないのだろうけれど。それでも彼には、いつもの彼でいてほしいから。頬を染めて慌てる可愛い可愛いモブくんと、ずっと一緒にいたいから。


「……やっぱり僕、おかしいのかな、」
『え?』
「僕のために泣いてくれたことよりも、ずっと……」


するとモブくんは俯いたまま、ぽつりと独り言のように何かを呟いた。いきなりのことに私が次の言葉を探していれば、しかしながら彼は控えめにそんな私の手を取って、そのままぎゅっと握ってきて。どきどきどきと、治まっていたはずの私の心臓がまた暴れ始めた。


「僕……名無しのさんの笑った顔、好きです」
『!!!』


そして不意に向けられたエンジェルスマイルに、私は再び膝へ顔をうずめざるを得なかったのである。



モブを押さえる
(……名無しのさん、?)
(な、なんでもないですお願いモブくんこっち見ないで)




― ― ― ― ―
たまにはモブくんが優勢(?)な話もどうかなと思ったんですが、うーん。暴走した感が否めない…すみません…次からは通常運転で参ります。
天然な鬼畜モブくんをどうにか表現させたいんです、が…!




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