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『ほんとにこの一週間、ずっと私の周りにバリアが張られてるんじゃないかってくらい何かに守られてたんです!』
「へえーそりゃすげえな。無敵じゃん」
『も一嘘じゃないんですってば霊幻さん!これってやっぱりモブくんの力のお陰なんでしょうか?』
「ふむ、僅かだが名残に力を感じる。こりゃ間違いなくシゲオのだ」
『あ、やっぱりそうなんですね!後でモブくんにお礼言わなきゃ!』
「……あ?」
『……、ん?』


あの交通事故(未遂)からちょうど一週間が過ぎた頃、身に起こった不思議な体験について相談しようと私はここ霊とか相談所へと足を運んだものの、当の霊幻さんはなかなか話を信じてくれなかった。しかしやっとその現象がモブくんの力であることを教えてくれてまるで胸のつかえが下りたようにスッキリとしたところで、新たに浮上した違和感に私は首を傾げる。確かにいま霊幻さんではない声が聞こえたはずなのに(反射的に返してしまったけど)、この部屋には私と霊幻さんの二人きりしかいないわけで。あれ?というか思い返してみれば天の声みたいに上から声が降ってこなかっただろうか。いやいやそんな馬鹿な話が……


『…………』


浮いてる。何か浮いてる。目の前の光景に開いた口が塞がらない。え、待って、これってもしかしなくても所謂人魂と呼ばれるものなのではないのだろうか。そのまま凝視しているとその人魂とばちりと目が合った。え。


「オイ、いつからお前さんまで俺様のことが視えるようになったんだぁ?」
『ひ、人魂がしゃべったああああああ!!!!』


私は思わず座っていた椅子から飛び退いた。前にも言ったが私は心霊現象なるものが全くもって駄目なのだ。今の今まで視えたことも感じたこともなかったはずなのに、一体どうして人魂が視える体質になってしまったのか。あまりの恐ろしさに震えながら身を縮込ませていると、しかしながら緑色をしたその人魂は思いの外嬉しそうな顔をしていた。


「お前さん、なかなか良い反応をするじゃねえか!やっぱり悪霊ってのは怖がられるもんだよな。な、霊幻」
「知らねーよ」
『れっ霊幻さん、早く!早くこの人魂を除霊してください!』
「お前も落ち着け名無し、なんで視えるようになったかは知らんがコイツはエクボだ。名前くらいは知ってるだろ」
『えっ』


本日二度目の衝撃だった。エクボさんというと、いつもモブくんと一緒にいる幽霊さんのことではないか。しかしまさかその幽霊さんがこんな色形をしているなんて思いもせず。再度椅子から顔を出し様子を窺えば、エクボさんは「こりゃシゲオの膨大な力を受けたせいだな」と言いながらふよふよと私の目の前まで下りてきた。どうやらエクボさんが視えるようになったのもモブくんの力らしい。今更だけどモブくんってすごい。先刻までの恐怖が一変、モブくんのお友達(?)である彼に出会えたことに感動を覚えていると「なんだもう怖がんねえのかよ」とエクボさんは若干残念そうに顔を歪ませた。見ればその緑の霊体からは二本の腕が生えていていて、我慢ならずその片手をぎゅっと握る。視えるだけじゃなくて触れた感触までわかるなんて、何これすごい。すると単純に握手を求めてきたヤツはお前さんが初めてだぜ……!と相手も何故か感動していた。随分と表情が豊かな幽霊さんだと思った。


『はじめましてエクボさん……!ずっとお会いしたいと思ってました!』
「ま、俺様はずっと知ってたけどな。よくもまああれだけシゲオのことを可愛がられるもんだ」
『え……?ま、まさか全部見られて、』
「服脱がせ始めた時はさすがの俺様も驚いたな」
『……』


なんてこった。私が視えないだけでエクボさんは幾度となく現場に居合わせていたというわけで、私のへ、変態行動もばっちり目撃されていたと。ああ、穴があったら入りたいとはまさにこのことだ。私は恐る恐るエクボさんへと視線を合わせた。


『ひ、引きました……よね?』
「いいや?むしろシゲオにはそれ以上に大胆にいかねえとダメだろうな」
『えっ、本当ですか?』
「ああ。アイツに女心を理解しろっつー方が無理な話だ」


だから俺様が特別にシゲオのことを教えてやってもいいぜ!と力強く親指を立ててみせたエクボさん。その思ってもみなかった申し出に私は両手を合わさぜるを得なかった。常にモブくんと一緒にいるエクボさんから直接アドバイスを頂けるのはかなり有難い。しかし今よりも大胆になれと言われても実際にはどうしたら良いのだろうか。正直今でも好意を精一杯伝えているつもりなんだけど、それ以上となると今度は私の方が限界というか恥ずかしくて死んでしまう気がする。そんな気持ちを伝えればエクボさんはうーむ、と考える素振りを見せた後、何やら怪しげな笑みを浮かべてきた。


「お前さんに俺様が憑依しちまえば一番手っ取り早いんだがなァ」
『ひ、ひょうい……?』
「おいエクボ、名無しにそんなことしたらそれこそモブの奴に消されんぞ」
「ハッ、冗談だよ冗談」


憑依とはこれいかに。しかしそんな私の疑問はガチャリと控えめに開かれたドアとそこに現れた人物によって全て吹き飛ばされてしまった。あの事故(未遂)以来だったから一週間ぶりの再会である。その嬉しさに任せて私がぶんぶんと手を振ってみせれば、彼は少しだけ視線を彷徨わせてからきこちなく会釈してくれた。ううん可愛い。120点。


『モブくんこの前は本当にありがとね!お礼に牛乳買ってきたよ!』
「わ、そんな……ありがとうございます」
『あとバリアも!お陰で一週間安全だったし、それにエクボさんも視えるようになったんだ!』
「え、エクボが?」
「おうよ、今までだってシゲオの話してたんだぜ?な、名無し」


私の肩に手を置くエクボさんに大きく頷く。モブくんはまさか私がエクボさんまで視えるようになるとは思わなかったらしく、驚いたように私とエクボさんを交互に見てしばらく目を瞬かせていたが、やがて何かを思ったのか僅かに複雑な表情を浮かべながら視線を下へと落としたのだった。

(モブくん……?)
いつもとは違うその様子に声をかけられずにいると、何故か横にいたエクボさんが小さく笑ったような気がした。



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(でもま、俺様の助言なんて実は必要ねえんだかな)






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