短編

□除霊して差し上げます
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私は昔から、何かと憑かれやすい体質だった。
少し霊が出そうな場所など通るだけでも駄目で、肩が重いとか、寒気で鳥肌が止まらないことなんてしょっちゅうで。けれどもそんな私に霊感なんてものはなく、自分でそれらを解決する術は無論持ち合わせていなかった。そんな私がすがる思いで向かうのはただ一つ。除霊をしてくれる霊能力者のいるところであった。


『こんにちは、』
「いらっしゃい……って、またお前か名無し。相変わらずモテモテなこった」
『……まったく嬉しくないです、それ』


おぼつかない足取りでなんとかソファーまでたどり着く。私は身を投げるようにしてそこへダイブした。ああもう体が重い。こんな体質ほんとに懲り懲りだ。
憑かれやすいのは今日とて変わらなかった。私は背後にヤツを携えながら、今日もここ、霊とか相談所へ足を運んだ次第である。で、そんな私を鼻で笑って出迎えたのがここの営業者である霊幻新隆さん。しかしながら私は、ここのオーナーであるはずの彼にはこれっぽっちも用はないのだ。


『モブくんは、まだなんですね』
「ああ、今日は少し遅くなるらしくてな」
『……そう、ですか』


ずしり。体が更に重く感じるのは、除霊してくれる張本人が今は不在であることがわかったからか。中学生にして超能力者であるモブくんはどうやら除霊もできてしまうらしく、私は彼に今まで幾度となく助けられてきた。そんな彼が今いないとなると、私はもうしばらくこのままということで。それはちょっと、つらいかもしれない。


「今日はやけにぐったりしてんな」
『……今回のは、けっこう強いみたいで』


ふうん、と身の入っていないような返事が聞こえる。この会話から容易に察することができるように、ここのオーナーである霊幻さんに霊感たるものなんてないのだ。自称霊能力者、所謂詐欺師なのである。そんな彼に頼むことなど何一つなく、私はそのままソファーに沈み込んだ。ああ、このまま眠った方が楽かもしれない。しかしぞわり。次の瞬間ただならぬ寒気が襲う。どうやらヤツはそれすら許してくれないらしい。


「……苦しいのか、」
『っ、』


ずし、とソファーが更に沈み込んだ。霊幻さんが隣に座ったのだ。
私は少し間隔を開けようと体を動かそうとしたが、怠くて言うことをきいてくれない。やっとの思いで霊幻さんの問いかけに頷いて返すと、霊幻さんは大きな手を私のそれにかぶせてきた。「冷てっ」霊幻さんの驚いたような声が近くで聞こえる。そう、私の体は自分でもわかるくらいに冷えきっていた。今日のは本当に強いみたいだ。早く、早くモブくん来てくれないかな、


『……!!』


しかし今までソファーに身を預けていたはずの私の体は、次の瞬間霊幻さんによって強引に抱き寄せられてしまった。あっという間に背中に彼の腕がまわり、私のおでこが霊幻さんの胸に優しく押し付けられる。なに、急にどうして。


『あ、あの、』
「知ってたか、名無し。霊ってのは人のぬくもりに弱いんだ」
『え……そう、なんですか?』
「ああ。だからモブが来るまで、俺がそいつを弱らせておいてやるからな」


そう言って霊幻さんは私の背中をさすってくれた。まるで安心させるかのように、何度も何度も。霊がぬくもりに弱いだなんて聞いたこともないけれど、しかしながら霊幻さんが抱き締めてくれて少し症状が和らいだのは確かだった。不思議なことに。

だから私はゆっくりと目を閉じて、霊幻さんに身を委ねることにした。このまま早く霊がいなくなればいいのに。すると頭上から霊幻さんの息の詰まるような声が聞こえた気がして一体どうしたんだろうと思ったけど、すぐにまた強く抱き締められてしまったせいで結局彼の表情はわからなかった。



除霊して差し上げます
(う……苦しいです霊幻さん、)
(うっせえ除霊中だ)




― ― ― ― ―
この間、霊幻さんが背中をさすってくれる夢を見たものでして。幸せだったなぁと思い馳せつつ欲望のままに書いた次第であります。
それにしても霊幻さんは難しいですね……書きたいんですけどね……





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