Unknown

□Amnesia
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「お願い。つわはすさん…。」
無事でいて。



「体の各所に擦過傷と内出血が見られますが、命に異常はありません。意識の回復ももうすくでしょう。ただ、軽く脳震盪を起こしている様なので、しばらく病院で経過を見ましょうか。」
僕はただただ何度も頭を下げた。つわはすさんが無事だったという喜びで心が一杯で、言葉を発する余裕すら無かったから。
「pーp良かったやんー。」
そう言ってレトさんは、優しく頭を撫でてくれる。
「それでは私はこれで。…お二人はご友人で?」
先生はドアを開けながらそう尋ねた。
「まあ、そんな様なものです。」
とレトさんが答える。
先生は短く、そうですか。と言ってドアを閉めた。
「pーp、俺は一旦家に帰るけど。それでええかな。あと、つわはすくんが目覚ましたら連絡入れてくれへん?」
あと、大学に欠席連絡しとき。と言ってレトさんも病室を出て行った。僕は一人、病室備え付けの長椅子に座って、真っ白なつわはすさんの顔を見ていた。
陽が傾いて、真っ白な部屋が茜色に染まっても、つわはすさんは目を覚まさなかった。
何度か看護士さんがやって来ては、点滴を確認して出て行った。
時計の針が動くたび、僕の心は重く沈んでいく。
「こんちゃーす。」
「ちょ。キヨくんそれパクリやろ〜。」
騒ぎながらレトさんとキヨくんが入ってきた。
「で、こいつまだ目ぇ覚めないの?」
とキヨくんがいきなり訊いてくる。
「うん。」
「本当に駄目やなぁ、つわはすくんは。こんなにpーpに心配かけて。」
「心配は要りませんよ。」
突然横から声がした。
「先生!一体いつからいたんですか?」
「そちらのお二人が入ってこられた時に。ですがお邪魔するのも憚られて。」
先生はややばつの悪そうな顔で話題を変えた。
「それでですね。患者さんは先程昏睡状態から通常の睡眠へと移行された様です。しばらくすれば自然に覚醒しますよ。」
「そうなんですか?」
「ええ。ですからもう、心配は要りません。」
先生は先程と同じ言葉を幾分か優しげに繰り返した。
「それでは私はこれで。」
先生が出て行った後は、皆でずっと喋っていた。安堵からか随分と会話が弾んだ。思えばこうしてゆっくり喋るのも久し振りだ。
しばらくしてレトさんもキヨくんも帰って行ってしまった。
病室に残っているのはまたしても僕だけになってしまった。
「んん…。」
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