Unknown
□Illusion
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Illusion
夢の中、君に触れたくて、幾度も手を伸ばす。
けど、僕の手が君に届く事は決してない。指が微かに触れたと思ったその瞬間に、君の姿はぼろぼろと溶けて崩れていく。
幻想だと、まがい物だと知っていてもそれでも、君に手を伸ばしてみずにはいられない。
いっその事この気持ちすらも只の錯覚で、
目覚めたら全て忘れてしまえる夢であって欲しい。そう思ってしまう。
僕は暗い部屋の中せめてもう一眠りしようと毛布を体に巻き付け、不毛な思考を追い払うように目を閉じた。
玄関のチャイムが鳴る音で目が覚めた。
「う……」
寝ている間に凝り固まってしまった体をほぐすように伸びをし、もぞもぞと布団から這い出た。
「眼鏡眼鏡」
無意味に呟きながら眼鏡を掛けると、ぼんやりとした視界がレンズを通して塗り変わった。
時計の針が8の文字からほんの少し進んでいるのが見える。
「どちら様ですかー?」
【つわはすです。朝早くごめん】
思い人の声を不意打ちのように聞かされて僕は一瞬凍り付いた。だがつわはすさんには見えなかった様だ。僕は、ドアを開こうとしたところでチェーンが掛かっているのに気がついた。手早くそれを外し、ドアを開け放った。すると冬の冷たい風が一気に流れ込んで来る。外には、つわはすさんが律儀にインターホンの前で待っているのが見えた。
「や〜、まじで寒かったわ」
コートを脱ぎつつ、つわはすさんが言う。
「冬だもんね。コーヒーでも淹れようか」
「あ、じゃあ俺やるから」
つわはすさんがそう言うので僕はつわはすさんに任せる事にした。彼は昔喫茶店でバイトをしていたらしく、コーヒーを淹れるのが上手いのだ。
僕はソファに腰をおろし、大学のプリントやら本やらで散らかっている机を片付け始めた。
こういうのは、部屋に誰も来ないと、片付ける気にもなれずに溜まっていってしまう。
しばらくすると、つわはすさんは白い湯気を上げる二つのカップを運んで来てくれた。
「ありがと」
どう致しまして〜、と言いながら、つわはすさんは音もなくカップを置いて僕の隣に腰を下ろした。
「それで、今日は大事な話があって。」
「ん、何?」
僕はカップから口を放して机に置き、つわはすさんを見た。
つわはすさんは言葉に迷ってでもいるかの様に小さく口を開き、また閉じてから言った。
「俺さ、pーpの事好きみたいなんだわ。」
「……っ!」