短編

□予防線
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片想いの相手を眺めながらため息を1つ。イケメン過ぎる。見てるだけでこんなに幸せな気持ちになれるだなんて。そしてこんなに近くで今日も昼食を取れることに感謝。

『ほんと、轟くんイケメンだよね。
蕎麦食べてるだけでかっこいい。』

そう言っても正面の彼から返事はない。当たり前だ、こんなにかっこいいんだからそんな言葉はもう聞き飽きているんだろう。彼にとっては私の戯言なんて取るに足らないことなんだ。
代わりに隣に座るお茶子ちゃんが相手をしてくれる。

「?ちゃんは轟くんが好きやねぇ。」
『うん、好き。
ていうかこんな完璧なのに嫌いな人いないっしょ。』

みんなが居る前でこうやって言うのは、私の小さな小さな自尊心を守る為の予防線。マジっぽくならず、冗談めかして好意を示しあわよくばを狙おうとする。なんとも卑怯でさもしいやり口である。自分が彼に見合う程の容姿や内面を持っているとは到底思えない。だからこそ、マジな告白なんか絶対にしない、できない。だからと言ってこの気持ちを抑えることもできず、そんな言葉なんて言われ慣れている彼に甘えてしまっている。なんて悲しい恋なんだろう。

*****

『ほんと、轟くんイケメンだよね。
蕎麦食べてるだけでかっこいい。』

毎日のように聞かされるこの言葉。これになんと答えるのが正解なのか俺はまだわからずにいる。他のヤツに言われてもなんとも思わないし、自分の容姿がそこまで良いとも思っていない。ただ、クラスメイトである??の口から発せられると心臓が跳ね上がって苦しくなる。これが真面目な告白というものであれば「俺も」だとか「じゃあ付き合うか?」だとか返しようはある。だがどうも本気ではないようで、こちらがそんな返答をして拒否されたらと考えるとなにも言えなくなってしまう。

『うん、好き。
ていうかこんな完璧なのに嫌いな人いないっしょ。』

そんな俺の気持ちも知らないで毎日毎日この調子なので正直辛い。冗談だとわかっているからこそ『好き』という言葉が出る度に切なくなる。まさか自分がこんな風に誰かを好きになるだなんて思ってもみなかった。





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