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□またひとつ
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「なぁなぁ、今日この後なにする?」
寒い寒い冬の帰路。
「今日もどっか寄んのか?」
だが何故だか俺犬塚キバは帰路を共にする奈良シカマルと話す事で、なんだかほんのり温かさを感じていた。
それは胸の鼓動が早くなったせい、なのか…?
「あー、つかさみぃな…キバ」
相手はそうでもないらしいけど。
「おー…だからよ、早くどっかあったけーとこ行こうぜ!」
早く何処かに行きたくて堪らない俺は、シカマルを逃さないため必死に同行するよう促す。
「…んだよ、そんなどっか寄りてぇの?」
そりゃ、できる限りお前と一緒に居たいからな。
…なんて、そんな小っ恥ずかしい事勿論言える訳なく、さみぃもん、とぼそっと呟くだけとなった。

暫くのんびり話していると、急にシカマルの足が止まった。見上げると、其処には見覚えのある建物が。
「キバ、家着いちまった」
此方に向けられた顔は、凍てつくような寒さで至る部分を赤くしていた。そして寄せられた眉。
まるでもう耐えられない、というような表情。わかってる、帰りてぇよな?でもよ、少しは俺の気持ち分かってくれねぇ?
「おう…、じゃあ、俺帰るな?」
さっさと帰ろう。今日ぐらい、間が空いても大丈夫だ。明日、また会えるじゃないか。それにこんな寒い中、毎日毎日何処かに寄らせるとか、俺非常識なのか?

本当に自分が嫌いだ。自分ばっか優先して。シカマルの事も考えねぇと。こんな我儘なヤツ、きっと邪魔くせぇだろ?
密かに好意を抱いていた俺は、なんとかシカマルとの距離を縮めようと必死だった。その行為が逆効果だったっつーことか?情けねぇな、俺。


一切目を合わせずくるりとシカマルに背を向けて、足早にその場を離れようと一歩踏み出した。涙が零れそうだった。俺、ホント男かよ。




__その瞬間、


腕を強く何かに掴まれた。
その腕を徐々に上に辿っていくように目線を移せば、やはりそこにはシカマル。
ふぅ、とシカマルの吐いた息が空気中で白く変化し、風に乗って消えていった。なんだか切なく思ったのは、俺だけ?

「誰が帰っていいっつったよ」
ニヤリという表現が似合ったその口元は、悪戯っぽく、切なく、なにか感じるものがあった。
ぼーっと突っ立ってると、ぐいっと腕を引き寄せられ、そのままシカマルの腕の中に収まった。
ドクッと心臓が高鳴る。
こんなの初めてだった。あまりにも急な行動に、身も心もついていけない。鼓動が先程よりも早さを増し、ドクドクと耳に響いている。どうか相手に聞こえない事を願う…。

「し、シカマル…。分かったから、」
シカマルの腕の力がどんどん強くなっていく。ギュウッと締め付けられ、シカマルとの距離がグッと近くなる。頭にシカマルの息がかかる。それだけでまた心拍数が上がる。

暫くして腕を解き、ゆっくりと俺を解放したシカマル。
「…なんか悪かったな」
シカマルが首元に手をやりながら俯く。
「あ、いや。全然大丈夫だぜ」
実際、全く嫌な気はしなかった。逆に嬉しかった。
「…ならよかった」
俯いた顔を上げ、再び笑みを浮かべるシカマル。

お前は滅多に笑わねぇ。そんなお前だからこそ、笑顔を見られた時、なんだか特別な気分になれるんだよな。その時俺は、勝手ながら幸せを感じている。



まだまだお前の知らない所は沢山ある。そんな所を、今日またひとつ知る事ができた。
















「キバ、好きだ」

それは俺に好意を抱いていたこと。

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