おそ松さん

□今はまだ
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「んー、ちょっと遅くなっちゃいましたね…」

一伸びをしながらさくらは呟いた。
今日は閉店ギリギリに客が来て早くレジが閉められなかったため、少し遅くなってしまった。
トド松はいつも閉店前にはあがっているため、帰りはいつも一人だ。
夜の公園を歩いていると、思い出すのはあの日のこと。
ここで助けてもらったんだよなーと思い出し、自然と笑みが漏れた。

「今日はいるかな…」

期待に胸を弾ませながら、公園横にいつもいるおでん屋さんを見る。
バイトの帰りにそこを通ると、高い割合でおそ松に会える。
偶然だとは思うが、それでも嬉しい。
さくらがチラリとおでん屋を見れば、そこには最近見慣れた赤いパーカー。
その色を見付けた瞬間、さくらは駆け足でその赤色に近づいた。
気付いて振り返る彼の表情が好きだ。

「おそ松さん、こんばんは!」
「お、さくらちゃん。
バイト帰りー?」
「はい」

座りなよ、とおそ松が少し横にずれてさくらが座るスペースを作ってくれる。
そんな然り気無い優しさにも胸が締め付けられる。

「バイト頑張ってんねー。
お疲れさん」
「あ、ありがとうございます」

おそ松はよくそう言ってはさくらの頭を撫でてくれる。
その手が好きで、さくらにとっては幸せな時間だった。

さくらの両親が既に他界していることを知ってからも、おそ松の態度はあまり変わらなかった。
この話を聞くとほとんどの人がさくらに気を使うのだが、おそ松はそうしない。
それが嬉しい。
気を使われるよりも、なんでもないようにしてくれる方が気が楽だった。

「あ、そうださくらちゃん。
定期公演では何するの?主役?」
「え、ええ、一応」
「マジで!?すげー!」

今回の定期公演ではさくらが主役だった。
ノアではキャストを決めるときに必ずオーディションをする。
そのオーディション結果、今回の主役に抜擢されたのだった。

「俺絶対観に行くからさー、頑張ってね」
「嬉しいです。頑張ります」

トド松の言った通り、おそ松は来てくれるようだ。
あまりの嬉しさにニヤけが止まらない。
申し訳ないがトド松や他の兄弟が来てくれることよりも、おそ松が来てくれることが嬉しい。
ほんとに申し訳ないことだが。
明日の練習頑張ろうと、
さくらは密かに誓っていた。

今はまだ妹みたいな存在かもしれない。
恋愛対象ではないかもしれない。
それでも諦めたくないし、側にいたい。
好きになってもらいたい。
隣で笑うおそ松を見ながら、さくらは思う。
彼に釣り合う女の子でありたいと。



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