おそ松さん

□ミライユメミ〜ル
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「さくらのそのソフトクリーム、一口ちょーだい」
「どうぞ。
トド子のもちょうだい」

六つ子の姉妹とさくら。
総勢七人で歩く。
和気あいあいとした雰囲気。

「ニュースをお伝えします。
今日未明、居眠り運転による交通事故がありました。
場所は…………」
「あ、ごめん電話」

トド子達に断りをいれ、スマホを確認する。
着信はトド松からだった。
不思議に思いながら、通話ボタンを押した。

「もしもし、トド松くん?」
『さくらちゃん!?
良かった……!』
「?
どうかしたの?」
『兄さんが……
おそ松兄さんが……!』
「…………え?」

スマホが手から滑り落ちた。
スマホと地面がぶつかる音が、やけに静かに聞こえた気がした。

「ごめんみんな、私帰る!」
「え、ちょ、さくら!?」

落としたスマホのことを気にする余裕もないまま、さくらは走り出した。





「トド松くん……!」
「さくらちゃん……!」

着いた先は赤塚病院。
手術室と書かれた部屋の前に、おそ松以外の兄弟たちが揃っている。
松代と松造が祈るように椅子に座っていた。

「おそ松さん、は……?」
「……兄さん、バイトからの帰りだったんだ……
どうしようさくらちゃん、おそ松兄さん危ない状態だって……!!」

その言葉に息が詰まる。
胸が締め付けられる。
呼吸の仕方を忘れたような気がした。
扉が開き、中から出てきた先生に松代達が駆け寄った。

「先生、うちのニートは……!
おそ松は無事なんですか!?」
「……非常に危険な状態です。
今日が峠かと……
もしものことも覚悟しておいてください」

医師の言葉に、松代が崩れ落ち、それを松造とカラ松が慌てて支えた。
看護師や医師がストレッチャーを押しながら出てくる。

「っ、おそ松さん……!」

駆け寄ろうとして、つい足を止めてしまった。
一瞬見えたおそ松の顔は青ざめていて血の気がなく、あちこち痛々しい傷が見えていた。
好きな笑顔がない。
声が聞けない。
全身から力が抜けて、さくらは膝から崩れ落ちた。

「やだ……
嫌です、おそ松さん……!!」







「ーーーーーーっ!!!」

ハッとして目を覚ます。
ドキドキと鼓動が五月蠅い。
冷や汗が額に滲む。
自分の両手が細かく震えていた。

「ゆ、め……?
違う、夢なんかじゃ……!」

夢なんかじゃない。そんな優しいものじゃない。
あれは予知夢だ。
デカパン博士から貰った予知夢を見れるキャンディー、ミライユメミ〜ルで見た未来だ。
さくらは自分の時計を見た。
時刻は5時半を少し過ぎたところ。
今日、おそ松は夜勤で朝帰りだと聞いている。

「さっき、確か……」

"兄さん、バイトからの帰りだったんだ……"
そう、バイトの帰り道だったと聞いた。
間違いない。

「っ、おそ松さん……!」

さくらはその格好のまま、スプリングコートを羽織って家を飛び出した。
おそ松が今している工事現場はさくらが働くファミレスの近く。
さくらは走るスピードを上げた。
走るのは遅い方だけれど、少しでも速くと思いながら。






「ふあーー、ねみー」

おそ松はあくびをしながら歩いていた。
人手が足りないからと夜勤に回された。
ニートだから特に支障をきたすことはないが、やはり眠いものは眠い。
今日彼女であるさくらは友達と会う約束をしているとかで、会う予定もない。
帰ったらシャワーだけ浴びてさっさと寝ようと心に誓う。

「おそ松さん……!」
「え、さくら?」

当然名前を呼ばれて見れば、反対車線側にパジャマ姿のさくら。
何故こんなところに?と首を傾げる。

さくらは無事なおそ松を見て、ホッとしていた。
なんだ、やっぱりただの夢だったんだとため息。
おそ松と話してこの不安を消そうと、顔を上げる。
チラリと視界に入ったものに、さくらは青冷めて走り出した。

「おそ松さん……!!」

伸ばした手がおそ松を突き飛ばすのと、感じたことのない衝撃が自分を襲ったのは、ほぼ同時だった。





リリリリリリリリ!

「誰かしら、まだ朝早いのに……」

家の電話が鳴り響き、松代は食事の準備の手を止める。
不思議に思いながらも受話器を取る。

「はい、松野です」
『母さん!!?』
「その声はおそ松じゃない。
どうしたの?」
『母さんどうしよう、さくらが!』





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