おそ松さん

□何てことない日
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夜の風が髪を揺らす。
寒さに震えながらさくらは歩いていた。
ヒラヒラと雪が花びらのように降っている。
それを眺めながら、首に巻いたマフラーを巻き直した。

「今日、星綺麗…」

見上げた空は星が輝いていた。
自宅近くの公園は、そこだけ切り取られたように星が綺麗に見える場所だった。
大学からの帰り道にこうしてこの公園を通り、星を見上げるのが好きだ。
空を見上げながら、さくらはゆっくりと歩く。それは何てことない日だった。
星を眺めながら歩くと次第に楽しくなってきて、さくらはよく前を見ていなかった。すると、

「きゃっ…」

何かにドンッとぶつかって、その場に尻餅をついた。

「ごめんなさい、よそ見して…」

慌てて顔を上げて、さくらは青冷めた。
目の前にはどう見てもヤンキーと思われる男が二人。
その威圧感に、さくらは息を飲んだ。

「ってーな、どこ見てんだよ糞が」
「ちゃんと前見やがれってんだ」
「す、すみません…」

慌てて謝る。
恐怖で顔が上げられず、さくらはガタガタと震えた。
どうしてちゃんと前を見ていなかったのだろうか。
自分の馬鹿さ加減に頭を抱えたくなった。

「あーいってぇーーー!おい、慰謝料寄越せよ」
「そうだそうだ、寄越せよ」

座ったままのさくらを睨み付けて言ってくる男達。
それはただの恐怖でしかなかった。
男達の言っていることを恐怖で上手く理解することもできない。

「つーか、いつまで座ってんだよ!
立てよオラ!」

強い力で無理矢理立たせられ、思わずヒッと声が漏れる。

「おら、早く金寄越せよ」
「それとも、身体で礼でもしてくれんのか?ああ!?」

詰め寄ってくる男にただ声もあげることもできず、震えるばかりだ。
本当の恐怖に直面すると声を出したり、逃げたりできないと聞いたことはあったが、まさか自分が経験するとは思わなかったし、こんな形で経験したくはなかった。

「おい、早くしろよ!!」
「ひっ、や、やだ…助けて…!」

無理矢理腕を引っ張られて、ようやく声が出た。
震える足で必死に抵抗しようと踏ん張る。
だが、男の力に女である自分が勝てるわけがない。
助けを求めようにも、今の時刻は夜中の12時を少し回ったところ。
近くに人影はなかった。

「(どうしよう、どうしよう…!誰か、誰か…!)」

これからどうなるのだろうという恐怖感に押し潰されそうになる。
思わず目をつぶったところで、自分の肩を誰かがそっと抱き寄せた。
突然の温かさに目を見開けば、目に入ったのは赤色だった。



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