おそ松さん
□やっぱりあなたが好きです
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ノアの公演が終わって早一週間。
無事に公演が終わったことで心に余裕が生まれ始めていた。
結果的に言えば、優人が書いた『fairytail』は大成功で終わり、販売したグッズも完売。
アンケート調査でも高評価だった。
「さくらちゃん、お疲れ」
「トド松くん。
今日シフト同じだったんですね」
さくらはトド松に挨拶を返した。
客が少ないこの時間帯は一息つける。
「そういえば見たよ。
キャストの人気投票1位おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
ノアのTwitterやホームページに、『fairytail』のアンケートで行ったキャストの人気投票の結果が掲示されたのだ。
それに見事、主人公アイリーンを演じたさくらが1位に輝いたのだった。
結果を見た時は目を疑った。
まさか自分が1位になるとは思わなかったから…
優人や他の先輩達から祝福され、なんだか変な感じだ。
「昨日兄さん達とその結果を見てさ。
何かお祝いしなきゃねーって話してたんだよ」
「そんなお祝いだなんて…」
「いーのいーの!
だってほんとに凄かったしね!」
僕まで感動しちゃったよ!とトド松が笑う。
そんな風に思ってくれるなら良かった。
頑張って良かったとさくらは安堵した。
「それでさくらちゃん、今日バイトが終わったあとは暇?」
今日は確か17時半までバイトして、そのあとはなにもなかったはずだ。
ファミレスのバイトも今日はなかった。
「17時半にバイトが終われば何もないですよ」
「よかった!
なら少し付き合ってよ」
「?はい、わかりました」
買い物でもするのだろうか。
トド松の理由は聞かなかったが、快く了承した。
17時半。
バイトが終わり、さくらはバイトの服から私服に着替えた。
先にあがっているトド松を待たせてはいけないと、慌てて外に出る。
「トド松くん、お待たせしました!」
「ん?大丈夫大丈夫!
さぁ行こうか!」
トド松はにこりと笑うと歩き出した。
その隣をついて歩く。
「そいえば、おそ松兄さんとは上手くいってる?」
「えーっと…」
「その顔は特に進展はないんだね」
「うう…」
あれからも一度会いには行ったが、特になにもなかった。
残念ながら。
さくらからなにか進展するきっかけを作りたいとも思ったが、本人を目の前にすると上手く言葉が出てこず、全く実行に移せずにいる。
さくらはため息をついた。
「!」
なんだか視線を感じて振り返る。
しかし、いつもの町並みがあるだけで、特に変わったものはなかった。
「さくらちゃん?」
「え、あ、なんでもないです」
さくらはパッと笑顔を向けると、トド松の隣を再び歩き出した。
あの定期公演が終わってから、たまに今のような視線を感じることがある。
でも、だからといって振り返っても人影はない。
「(…気のせい、ですよね?)」
少し敏感になっているのかもしれない。
さくらはふうっと息をついた。
「どうしたの?悩み事?」
「あ、いえそうではなくて…」
さくらの表情が浮かないことに気が付いたトド松が顔を覗き込む。
心配させてはいけないと、さくらは慌てて笑顔を浮かべた。
「なに?おそ松兄さんのこと?」
「えっと、はい…
少しでも妹のようではなく、女の子として見てほしいなーって」
あははと笑えば、トド松は笑っていた。
トド松としてはおそ松がさくらを好きなのを知っているため、そんなこと気にするだけ無駄だと分かっているが、口には出さない。
一方さくらは上手く誤魔化せたことにホッと安堵した。
気のせいかもしれないし、心配させる必要はない。
「(気にしないようにしよう…)」
さくらは感じる視線を無視して、トド松との会話を楽しんだ。
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