おそ松さん

□私が彼を好きな理由
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トド松はイライラしながらスマホをいじっていた。
彼のイライラの原因は目の前の彼、おそ松だった。
以前さくらが所属する劇団ノア定期公演の時に撮った写真。
スマホを持っているならと、トド松がおそ松に写メを送ってあげた。
わざわざツーショットっぽく加工したものも添えて。
すると早速ツーショット版を待ち受けにし、スマホを見てはニヤニヤニヤニヤ。
鬱陶しい。

「はー、マジさくら可愛い……」
「おそ松兄さん、キモイ」
「仕方ないだろー、さくらマジ可愛いんだからさ」

トド松がバッサリと言えば、彼は特に気にした様子もなくそう返してきた。
流石にチョロ松や一松も呆れ顔だ。
本当に鬱陶しい。

「ねーねー兄さん」
「なんだよ十四松ー」
「なんで家では呼び捨てなのに、さくらちゃんの前ではちゃん付けなのー?」
「え?」

十四松の何気ない質問におそ松は目を見開いた。
そういえば、とカラ松達もおそ松を見る。
彼はみんなに見られて、気まずそうに目を反らした。

「おそ松兄さんって、好きな子の前ではヘタレだよねー」
「うっせぇ!」

あんなに大雑把なくせに、こういうところでは繊細でヘタレだ。
おそ松の反応に、まるで面白いおもちゃを見つけた子供のようにトド松がニヤニヤする。

「呼んであげたらいいのに。
さくらちゃん喜びそうじゃない?」
「確かに」
「タイミングがわかんねーんだよ!」
「タイミングとかあんの!?」

おそ松の言葉にチョロ松がツッコんだ。
恋人同士なのに、呼び捨てにすることまでタイミングが必要なのだろうか。

「ふ、そんな気を使う必要はないだろう?
なんせ二人は、運命の赤い糸で結ばれているのだからな」
「ってか、そんなこと気にしてる時点でヘタレだよね」
「え?」

カラ松の言葉を完全に無視する一松。
カラ松が少し悲しそうだが、誰も触れない。

「おそ松兄さんなら、さくらは俺にベタ惚れだからな!とか言いそうなのに」
「言えるか!」
「ってことは、自信がないんだね?」
「は?
…………っ!
嵌めたなトド松!!」

トド松の考えに気付いたおそ松は声を荒らげる。
おそ松からは「さくらが好きだ」とはよく聞くけれど、「さくらは俺のことが好きだから」とは聞いたことがない。
要するに、おそ松はさくらに好きでいてもらえる自信がないのだ。
やられたとおそ松は頭を抱える。

「さくらちゃんはおそ松兄さんのこと大好きじゃん。
見てればわかるよ」
「いや、うん、まぁ……」
「何が不満なわけ?」
「不満っていうかさ……」

トド松の冷めた瞳におそ松は小さくなる。
本当、さくらのことになるととことん弱い兄だ。

「さくらが言ってたんだよ。
公園で助けてもらった時から俺のことが好きだって」

思い出すのはあの日のことだ。
泣きそうになっていたさくらのことを放っておけなかった。
助けたことに後悔はしてない。
そこから関係が始まったのだから。

「でもさ、もし助けたのが俺じゃなかったら?
そしたら、さくらは違う奴を好きになってたんじゃねーのかな」

たまたま通りかかったのが自分だった、助けたのが自分だった。
違う人が助けていたら、結末は変わっていたのかもしれない。

「そんなこと考えると、ちっと不安になったんだよ」
「ふーん……」

ははっと笑うおそ松。
しかしその表情はどこか不安気だった。




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