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□前進??
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私には好きな人がいる。
名前は松野一松。
童貞、無職、猫好きの卑屈松。
彼とは家も近くで、まぁ、所詮幼馴染み。
彼は六つ子で四男にあたる。
正直な話、私は一松が好きだけど彼は私のことが嫌いなんだと思う。
なぜそう思うかって?
まぁ、ぶっちゃけアイツは卑屈で素直じゃないし、何考えてんのか分かんないんだけど……
それでも私への扱いがひどすぎる。
会えば大抵ケンカ。
お前より猫の方が大事なんてよく聞く言葉。
一松より他の五人との方が仲はいい。
それなのになぜ彼なのか……
なぜだろう?
気付いたら好きだなーって思っていた。
私もひねくれた性格だから、きっと一松は気にくわないんだよ。
残念ではあるけどさ、どうしようもないじゃん?
会えないよりはいいかなーって開き直ったよ。
ま、恋に悩んでしくしく泣くような性格でもないしね。

「でも好きだなー」
「そうそう、好きな気持ちはなかなか変わらないからね。
……って誰!?」

突然聞こえた声に驚いて辺りを見るけど、誰もいない。
幽霊!?
いやでもちゃんと声したよね!?

「幽霊はマジ無理だわ」
「幽霊は透けるから殴れないんだよ!
ってか、なんで心読むかな!?
……猫?」

声がした方を睨めば、そこには猫の姿。
いやいや、まてまて。
猫が話した?
なにそれ漫画じゃあるまいし!
ファンタジーすぎるでしょ!!
私は猫の前でしゃがむ。

「本当に話したのあんた?」
「うお、やっぱりしゃべった!」

心の中で話せば、全く同じ言葉が返ってきた。
やっぱりこの猫話すんだ。
しかも心の中で思ってることを。
どーも反復してるだけみたいだから、答えたりは出来ないみたいだけど。

「随分と汚れてんね?
怪我もしてるし」

これはなんか投げられたかな?
猫の前足のところは少し血が滲んでる。
まったく、世の中にはひどい人間がいたもんだ。
その点私は優しいからね!
猫にも優しくしてあげるよ。
私は鞄からハンカチを出し猫の前足に巻き付けた。

「あんまバイ菌いれない方がいいだろうしね。
ところで、あんた一松の友達の猫じゃない?」

見たことあると思ったら、そういえば一松と仲のいい猫だよね。
眼鏡かけてるみたいで印象的だった猫だ。

「うーん、猫が話すわけないし……
デカパン博士の発明かな?
またややこしいもの作ったな」

こういうことに関係あるのは、大抵デカパン博士だ。
猫を実験台にしたんじゃないだろうな、あのハゲ親父。
猫の頭を撫でてあげたら、嬉しそうに鳴いた。

「こんなボロボロになってるのに一松いないなんておかしいよねぇ……
さては、あいつなんか墓穴掘ったな」

どーせこの猫から本心でも暴露されたんだ。
あいつ淋しがりやなんだよねー。
なんか予想できる。

「にゃんこー!にゃんこー!?」
「あ、十四松じゃん。
君のこと探しに来たみたいだよ」

遠くの方で十四松が路地に頭を突っ込んでいるのが見える。
私は猫にそう告げると、見付からないように隠れた。

「あ、いたー!!良かった!!」

十四松が猫に近づいた。
やっぱり探してたのその猫のことなんだ。

「俺ね、一松兄さんのことちゃんと分かってなかったみたい。
余計なことしちゃった。
だからね、謝るの手伝ってください」

そう言うと十四松は猫を抱き上げて歩き出した。
へぇ、十四松と一松がケンカしてんの?珍しい。
あの二人は仲良いから、ケンカとか見たことないや。

「どれ、どうせなら見守ってあげよ」

私はニヤニヤしながら十四松とは違う道で公園を目指した。
あっちの方は公園だし、あいつらよく公園いるからね。
どんな修羅場になるかなー。
楽しみ。
先回り先回りっと!




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