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□遠い昔の約束
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ずっとずっと昔。
まだ俺達が子どもで、母さん達でも俺達の見分けがつかないような頃。
あの頃は俺達兄弟の個性はあまりなくて、本当に見分けるのに苦労していた。
それなのに一人、俺のことを必ず分かってくれる奴がいた。
名前は名前。
俺達兄弟の幼馴染み。
トトコちゃんみたいな可愛さがあるわけじゃない。
ぶっちゃけ普通の顔立ち。
でも、明るくて前向きで、いつも笑ってるような奴。
俺は幼いながらに名前のことが好きだった。
ガキの頃、二人で約束したことがある。
「大人になったら結婚して、ずっと一緒にいようね」っていう、プロポーズ紛いの約束。
名前はもう覚えてないだろうけど、俺はずっと覚えていた。
だってずーっと好きだったんだぜ?
覚えてるに決まってるだろ。
小学校も、中学校も、高校も、ずっとずっと名前のことが好きだった。
ただ悲しいことに、俺は名前と同じクラスになったことがない。
高校なんて、あいつ女子高通ってたしな。
幼馴染みとはいえ、そこまで頻繁に会っているわけでもなかった。
そんな立ち位置なもんだから、俺はちゃんと告白も出来ずにいた。
告白して彼氏になれれば嬉しいけど、断られると流石にへこむ。
かなりへこむ。
そんな風に一歩を踏み出せずにいた俺に、衝撃の事実が突きつけられた。
それは、俺の新しい弟、神松が生まれたことが始まりだった。

ある日、突然弟が増えた。
なんでも俺達兄弟から零れ落ちた人間としての良い部分が集まって、人の形になったものが神松らしい。
神松は正直良い奴だ。
カラ松のサングラスやギターを磨いたり、チョロ松にアイドルのVIP席のチケットプレゼントしたり。
一松のために猫集めて、十四松と野球して、トド松のために女の子集めて合コンセッティングして。
俺に至っては当たり馬券もらった。
更には生まれて五日で就職を探し、月に三万円は家に入れるんだとさ。
ご立派なことで。
そんな立派な神松を見て、母さんと父さんは俺達のことを冷めた目で見るようになった。
ま、それが当たり前の反応なのかもしれない。
けど、俺達からしたら居場所を全て持っていかれた感じがした。
こいつがいたら何もかも奪われてしまう。
そんな気がして、俺達はあいつを殺してやろうと思った。
こいつを殺せば、いつもの日常に戻れるって。
でも、あいつは俺達の人としての良い部分の塊。
俺達が悪巧みすればするほど、人としての良い部分は神松に流れ込み、あいつが最強になっていった。
同じ身長だったはずなのに背は高くなり、顔もキリッとしてイケメンになっていた。
トトコちゃんまであいつにメロメロになっていた。
このままじゃ本当にまずいと思った。
嫌味たらしくトド松が「モテモテで羨ましいねー」と言えば、あいつはこう言ったんだ。

「僕、名前ちゃんが好きなんだよね」

その言葉に耳を疑った。
あいつから一番聞きたくない名前だった。
あいつが名前を好きになってしまったら、きっとあっという間に付き合うことになるのだろう。
そんなの嫌だった。
でもだからと言って、俺に告白する度胸はない。
あいつは近いうちに名前に告白すると言っていた。
もう付き合うのも時間の問題だ。
潮時なんだろう。
諦めなきゃならないときが来たんだ。

その日、家には俺しかいなかった。
弟達はみんな家にいるのが嫌なんだ。
少しでも神松と離れたいから。
今日は神松が名前をデートに誘うらしいから、むしろ家に残った。
金もないし、なによりあいつらが並んで歩く姿とか見たくないからね。
ボーッとしながらテレビを見る。
面白い番組やってねーなー……
つまんね。

そう思ってためいきをつくと、突然インターホンがなった。
誰だよ一体。
首を傾げながら玄関を開ける。
開けて驚いた。
そこにいたのは名前だったんだ。




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