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□変わること、変わらないこと
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ある日、チョロ松の就職が決まった。
前々からハロワに行ったり、求人雑誌見てたりはしていたけど、結局就職したくないとか言っていたし、まさか本当に就職が決まるとは思わなかった。
就職の話を聞いたときは驚いたけど、私は祝福した。
何だかんだで就職のことを悩んで、考えていたのはチョロ松だったから。
家でパーティーするから来てくれないかと言われた時は、二つ返事でOKした。
大事な幼馴染みの就職祝い、参加しないという選択肢はなかった。

当日、私はプレゼントに手帳を用意して松野家に行った。
私がおそ松の彼女だってことはみんな知ってるから、自然と私の座る位置はおそ松の隣り。
正直最近仕事が忙しくてまともに会えてなかったから、会うのが楽しみだった。
でも会った瞬間、喜びは不安に変わる。

「(おそ松……?)」

いつも感情豊かな彼が、うつ向いて黙っている。
表情が伺えない。
いつもこんなことないのに。
私が疑問に思っている間に、パーティーが始まった。

カラ松がチョロ松に、にゃーちゃんの財布と自分の顔入りパンツをプレゼントし、雰囲気が賑やかになる。
正直自分の顔入りタンクトップもないと思うけど、パンツも酷いと思うよ、カラ松。
私も思わず苦笑してしまった。
みんなが笑顔の中、おそ松が声を張った。

「トド松!
さっきっから何回も呼んでるだろ。
醤油!」

おそ松の態度に驚きつつ、トド松が醤油をおそ松に渡す。
いつもと違う雰囲気に、私も戸惑ってしまった。
どうしたのか聞こうと思ったけど、おそ松の纏う雰囲気がそれを拒んでいるのを感じる。
空気を変えようと十四松がサイン入りバットをプレゼントしたのをきっかけに、みんな次々とプレゼントを渡していく。

「チョロ松、これは私から」
「え、いいの!?」
「もちろん。
就職おめでとう」
「ありがとう名前
!」

手帳、喜んでくれて良かった。
すると、みんな次から次へとプレゼントを渡し、ガラクタが山のように積み上がっていく。
まるでゴミ処理車。
こんなにあったんだね。

「……ありがとう。
僕、頑張るから……」

呟くように言うチョロ松。
きっと、不安なんだよね。
はじめての就職、はじめての一人暮らしだもん。
仕方がないと思う。

「あのさ、この空気やめない?
耐えられないんだけど」

一松がそう切り出すと、みんな「それもそうだ」と納得し、笑顔を浮かべた。
浮かない顔で送り出すよりも、笑顔で送り出す。
みんな思ってたことなんだよね。
みんな本当はおそ松のことも気にしてる。
でも、深く触れない方が良いんだってことも、なんとなく感じてる。
十四松はなんとか雰囲気を明るくしたくて、いつもより元気に振る舞っているみたい。

そんなみんなの方ばかり気にして、大事な人をちゃんと気にかけなかった。
だから、私のせいでもあるんだよね……





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