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□死に呪われ、想われ生きて
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別に、生きることに執着がある訳じゃなかった。
むしろ消えたいとさえ思っていた。

両親は早くに離婚。
父親に引き取られて間もなく新しい母親はできたけど、家事はしないしろくでもない人だったし、父は暴力を振るう人だった。
学生時代は愛想もない私を虐めの対象としていたし、何とか就職を決めてもブラック企業だわパワハラはあるわで最悪だった。

正直な話、私には一生不幸しか訪れないんじゃないかと思っていた。
だからいつ死んでも良かったんだ。
まぁでも、だからと言って自殺は負けたような気がして嫌だったから、神様を呪いながらなんとか生きてきた。
そんな日々を過ごしていたある日のこと。
私は交通事故に巻き込まれる。
酔っ払いによる暴走事故で命を落としたのだ。
やっと終われるんだな、なんて他人事のように感じていた。
やっと死ねる。
やっとこの世界から抜けられる。
そう、思っていたのに……

「どこよここ」

気付けば見知らぬ教会に倒れていた。
何で?
私こんなとこ来た覚えないんだけど?
どういうことなのこれ。

「こんなところに人とは、珍しいな」

後ろから声がして振り返れば、そこには神父姿の男の人。
あ、ここの教会の方かな。

「あー、気付いたらここにいたんですけど」
「そうか、神が君を導いたのかもしれないな。
俺はカラ松。
エクソシストだ」

カラ松と名乗った男性はエクソシストだと言う。
エクソシストってあれだよね?
幽霊とか払うやつ。
なにそれ、この人頭おかしいの?
この科学の現代にエクソシストって。

「君の名前は?」
「名前です。
名字名前」
「名前か。
良い名前だな」
「それはありがとうございます」

取りあえずお礼だけは言っておく。
なんだかキザな人だな、なんて思っていた。

「あ、じゃあ私はこれで」
「もう行ってしまうのか?
気を付けて帰るんだぞ」
「どうも……」

私はカラ松さんに頭を軽く下げ、教会の扉を押した。
目に入る太陽の光り。
待って、待ってよ。

「ほんっと、ここどこなのよ……」

見たこともない森。
待て待て待て、よく考えろ。
私は確かに事故に遭って、死んだはず。
事故の衝撃も覚えているし、帰っている最中の記憶もある。
仕事では何をしていたかとか、家の住所とか、電話番号とかもちゃんと覚えてる。
だから私がおかしい訳じゃない。
なのに、これはいったいどういうことなんだ。
教会に行った覚えもないし、私の住む近くに森はない。
というか、こんな動物見たことない。
私は木の上にとまるカラフルな鳥を見上げた。
赤、黄、翠の羽を持った鳥は、頭が二つあった。
こんな変な鳥、絶体いない。

「なんか、全然違う世界みたい……」

確か、今話題のドラマや漫画で『トリップ』というのがあった。
違う世界にいっちゃうやつ。
ちゃんと見たことがないから、定かではないけれど。
でも、これこそまさしくトリップではないのだろうか。

私は森の中を歩いてみた。
出口がどこかも分からない。
困った。
カラ松さんに出口聞けば良かった。
私はため息をつく。




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