short〈ウルトラ〉

□10,000hit フリリク企画@
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※注意※
夢主、光の国滞在設定!












花が光の国にやって来て、今日でちょうど半月経った。
地球とは違う環境の中、ウルトラ兄弟達の助けを借り、此処での暮らしにも慣れてきたある日の事。

「花の歓迎パーティーをしよう!」というウルトラの父の突発的な提案により彼の自宅に招かれた花は、高級そうな革張りのソファの上で冷や汗を流し固まっていた。


「ああ…、柔らかいなぁ、花ちゃんは」

「……。あ、あの、タロウさん…?」

「んー?」


何をなさっているんでしょうか…?ごく至近距離で聞こえた台詞に背筋を震わせつつ、ぎこちない動きで背後を振り返った花は、視線の先にいる人物にそう問い掛けた。
躊躇いがちなその質問に、尋ねられた人物──もといウルトラマンタロウは、にんまりと楽しげな笑みを浮かべてから口を開く。


「はは、やだなぁ。そんなの、決まってるじゃないか」

「は?…ひゃあっ、ちょ、ちょっと…っ!」

「愛でてるんだよ」


こうやってね。パチリと器用にウインクをしながら告げたタロウは、後ろから抱え込むようにして拘束している花の頭に頬を擦り寄せた。
途端、悲鳴にも似た抗議の声が上がったが、当の本人に止めるつもりは毛頭無いらしい。
デレデレと表情筋を緩める様は、正直言って“ピンチを救うヒーロー”などとは呼びたくなかった。


「(人の事、ペットか何かとでも思ってるのかな…)」


決して強い力ではないものの、細身ながらきちんと鍛えられた二の腕からは、そう易々と逃げられそうにもない。
最早抵抗しても無駄だと悟った花は、何処か遠い目をしながら溜め息混じりに一人ごちた。

と、そんな折りである。


「こらタロウ。お前、いい加減にしろよ。花ちゃん、困ってるじゃないか」

「痛っ!」


バコンッ!と何かが叩き付けられた音と共に、タロウの悲鳴が上がった。
ん?頭上に疑問符を浮かべながら再び花が振り向くと、ソファの向こう側に立っていたのは一人のウルトラ戦士。

丸めた雑誌を手に仁王立つ、ウルトラマンエースその人であった。


「酷いや、兄さん!何も叩く事は無いだろ!?」

「うるさい。…ごめんな、花ちゃん。うちの馬鹿弟が」

「い、いえ」


雑誌で後頭部を叩かれたタロウは、ムッと唇を尖らせ文句を垂れた。
しかし、そこは流石兄弟といったところか。エースは不貞腐れる弟を一喝すると、未だ拘束されたままの花を彼の腕から引き剥がした。


「あ、ありがとうございます」

「どういたしまして」


エースという名の救世主の登場により、ようやくタロウの腕から逃れる事の出来た花は、ホッと胸を撫で下ろしてから頭を下げた。

律儀に礼を告げる彼女の頭を優しく撫で、柔和な笑みを浮かべるエース。
一人っ子の花にとって、憧れの“兄”とのこうした触れ合いは非常に嬉しいものであった。


「……むぅ…」


一方、二人のやり取りをジッと見据えていたタロウは、えらく仲睦まじい様子にプクリと頬を膨らませた。

折角、独り占めしていたというのに、横から、しかも自身の兄に奪い取られるなんて。
チェッ、面白くない。タロウは心内で苦々しげに吐き捨てると、膨れっ面のまま花の背中に飛び付いた。


「ひゃああっ!ちょ、タ、タロウさんんんっ!!!」

「あっ!タロウ!お前、何やって、」


再び襲い掛かった急展開に、驚いた花の口から甲高い悲鳴が上がる。
彼女の悲鳴と同時に、傍らのエースが肩を怒らせ引き剥がしにかかったが、そうはさせないとばかりにタロウは伸びてきた腕を軽やかに避けた。


「避けるなよ!」

「フンだ!兄さんなんかに、花ちゃんをやるもんか!」

「な、何だとぉ〜っ!?」


花を挟んで睨み合いを始めた戦士二人組を、彼女は憔悴しきった顔で見上げる。
視線の先の二人は、ともすれば今にも取っ組み合いを始めそうで、最早溜め息を吐く事しか出来なかった。


「あのー…、お二人さーん…」


タロウに背中側から抱き付かれた状態で、花はおずおずと声を掛けた。
だが残念な事に、その呼び掛けに対する返答はどちらからも返ってこず、それどころか彼女の言葉自体、彼らの耳には届いていないようにすら見受けられる。

それが証拠に、エースとタロウの両名は、花そっちのけで子供じみた言い争いを続けていた。


「……」


突如として勃発した兄弟喧嘩に、花はガックリと肩を落とし項垂れた。
恐らく、暫くはこの状態が続く事になるのだろう。

…せめて、食事会が始まるまでには終わらせてよね。花は心内で一人ごちると、やれやれ。と首を振った。
その際彼女が浮かべていた表情は、意外にも嬉しそうなものだった、と招待客の一人が呟いていたという。








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