short〈ウルトラ〉

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※注意※
夢主、光の国滞在設定!












光の国で過ごし始めて、間もなく半年。
ゾフィーのお墨付きだという珈琲を片手に、ウルトラの母から借りた本を読み耽っていた花は、唐突に鳴り響いた来客を告げるベルの音におや?と頭を上げた。

本に栞を挟み、珈琲をテーブルに置く。
はーい!と元気よく返事をしながら玄関に向かい、躊躇う事無く扉を手前に引いた。


「どなたですかー?」


一拍置いて顔を覗かせたのは、警備隊期待のルーキーと名高い戦士、ウルトラマンメビウスであった。
そして彼の背後には、柔和な笑みを讃えたコスモスと、初めて見る顔の青年が立っている。
人間でいう耳にあたる部分に生えた、赤い角のような突起物が特徴的な青年だ。

何だか不思議な組み合わせだなぁ、と思いつつ、花は突然の来訪者に機嫌を損ねる事も無くにこやかに笑んだ。


「おはよう、メビウスさん、コスモスさん。えーと…」

「ああ、私はエックスだ。ウルトラマンエックス」

「エックス、さん」


花の向けた挨拶に対し、メビウスとコスモスのそれぞれが口々に「おはよう」と返す。
その傍らで、青年──もといウルトラマンエックスが、静かに己の名を告げた。
素っ気ない態度の彼に少々困惑しつつ、ちら、とメビウスを見上げる。
すると、その視線に気付いたメビウスが、苦笑交じりに口を開いた。


「突然ごめんね。今、忙しい?」

「ううん、ちょうど暇してたところ。どうしたの?」

「ああ、良かった。…実は、彼…、あ、エックスが2、3日光の国に滞在する事になったから、この辺の道案内をしていたんだ」


それで、花さんの話をしたら、是非会ってみたいって言うから…。眉尻を下げて続けるメビウスに、花は「何だ、そんな事か」と安堵の息を吐いた。

朝早く─といっても、もう10時過ぎなのだが─訪ねて来られた為、何か問題でも起こったのかと少しばかり緊張していたからだ。


「コスモスさんも道案内?」

「いや、私はたまたま通りがかってね。何だか面白そうだから、彼らについて来たんだ」

「あはは、成程。…ん、じゃあ、折角ですから、うちに寄って行きませんか?」
 

貰い物のケーキがあるんです。そう言いながら花が部屋へ促すと、その台詞を待ってました、と言わんばかりに三人が同時に頷いた。
愛嬌たっぷりの仕草に吹き出しつつ、玄関を入ってすぐの所にあるソファに彼らを誘導する。


「ちょっと待っててくださいね」


花はペコリと会釈してから告げると、温くなってしまった珈琲を手に、奥のキッチンへと歩を進めた。


ポットの中のお湯を再沸騰させている間、冷蔵庫から貰ったロールケーキを取り出し、包丁で切り分けていく。
ふわふわのスポンジに包まれた色とりどりの果物が真っ白い生クリームによく映え、何とも美味しそうだ。

キッチンに広がる甘ったるい香りに目尻を緩め、ふんふんと陽気に鼻歌を歌っていた花は、背後に立つ人物に声を掛けられるまでその存在には微塵も気付かなかった。
 

「手伝おう」

「ひゃあっ!…び、びっくりしたぁ…」

「うっ、す、すまない」


突如掛かった声音に、花は包丁を放り出しかけた。
それを寸でのところで回避し後ろを振り向くと、一体いつの間にやって来ていたのか、困惑顔を浮かべたエックスがそこに居た。

どうやら、花の上げた悲鳴に動揺したらしい。


「手伝いなんて…。良いですよ。お客様にそんな事させられません」

「しかし、突然押し掛けたのは我々の方だから」

「うーん。……あ、じゃあ、このケーキを運んでもらって良いですか?」


意外にも頑固なエックスに当惑しつつ、期待を込めた眼差しを向けてくる彼にポリポリと頬を掻く花。
仕方なく、つい先程切ったばかりのケーキを皿に盛り、大きめの盆に乗せフォークと一緒に手渡す。
エックスはそれらを受け取ると、そそくさと元来た道を戻っていった。

リビングの方へ消えていく彼の背を見送り、花もまたティーバックを入れた陶器製のポットにお湯を入れ、4組のカップと一緒に別の盆に乗せてからエックスを追う。


「お待たせしました」

「ありがとう、花」


エックスに続き、キッチンから出てきた花を出迎えたのはコスモスだった。
彼は花の手から盆を取り上げると、エックスが並べたのだろうケーキの隣にカップを置いていく。
それに合わせて、メビウスがポットから紅茶を注ぎ、準備は完了である。

結局、全部やってもらう羽目になってしまった。と苦笑気味に一人ごち、花はソファに腰を落ち着けた。


「じゃ、食べましょうか」


いただきます。花が眼前で手を合わせると、彼らもまたそれぞれ手を合わせる。
どうやらこれは、万国…いや、全宇宙?共通らしい。

新たに気付いた発見に頬を緩め、花は一口大に切ったケーキを口内へと運んだ。
途端、芳醇な生クリームと甘酸っぱい果物の味が、口いっぱいに広がる。


「ふわぁ〜、おいひい〜」

 
デレと眉を下げ、頬に片手を添えて呟く。
だらしなく表情を蕩けさせる眼前の花を一瞥し、不意にコスモスがクツリと喉を鳴らした。


「へ?」

「ああ、ごめんごめん。可愛くて、つい」

「かわ…っ!?…ゲホッ、ぐふ…っ、」


突拍子もないコスモスの発言に、思い切り噎せ返りながら目を白黒させる。
何を言い出すんだ、一体。文句の一つでもぶつけてやりたかったが、喉に詰まりかけたケーキが邪魔をして上手く言葉が紡げなかった。

ゲホゴホ、とひとしきり咳き込み、涙で両目を滲ませながら、問題発言をかましたコスモスを睨み付ける。
しかし彼は、何事も無かったかのように優雅にケーキを食べ進めており、我関せずといった状態だ。


「〜〜〜っ!い、いきなり変な事言わないでください!死ぬかと思ったじゃないですか!」

「だって、本当の事じゃないか。ね、メビウス」


地球に居た頃から、甘ったるいやり取りとは無縁の生活を送ってきた花にとって、彼の飄々とした態度には正直動揺を隠せなかった。

カアアッ、と頬を上気させコスモスに噛み付くが、軽くいなされてしまう。
それどころか、自身の隣に座すメビウスにまで話を振るのだから、尚更たちが悪い。

一方、話を振られたメビウスは、口内の物を紅茶と一緒に流し込むと、コクリと大きく頷きながら満面の笑みを浮かべてこう言った。


「はい!花さんは可愛いです!…あ、でも、どちらかと言えば、美人さんかも。そう思いませんか?エックス」

「ああ、確かに。彼女は、今まで見てきた人間の中でも一、二を争う程に美しいな」

「ぶっ…!」


予想外の返しに、花は盛大に紅茶を吹き出した。
ぼたぼたとテーブルを濡らすそれを、一緒に持って来ていた濡れタオルで拭き、ついでに口元も拭う。

そんな花を余所に、メビウスとエックスの両名は、いかに彼女が愛らしく素晴らしいかを熱く語り合っていた。
ちなみに、コスモスは参加こそしていないが、二人のやり取りを止めるつもりは毛頭無いようだ。
それが証拠に、最後の一欠片となったケーキを、にこやかな笑みを浮かべたまま口内へ運んでいた。


「(ダメだ、ツッコミ役が誰一人として居ない…)」


花は、とんでもない面々を招いてしまった。と心内で後悔しつつ、ハァと深く嘆息した。







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