short〈ウルトラ〉

□10,000hit フリリク企画C
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※注意※
夢主、光の国滞在設定!












「悪いが、これから俺の研究室まで来てくれ。」いつか貰った携帯型の通信機にそんな連絡が入ったのは、夕食の支度をしていた真っ最中の事であった。

一体何の用だろう…。一方的に切られてしまった通信機を見据え、お玉片手に首を傾げる花。
が、そうして悩んだところで彼──もといヒカリの考えなど分かる訳もなく、仕方なしに花は身に着けていたエプロンの腰紐を解いた。








数十分後、宇宙警備隊本部にあるヒカリの研究室前にやって来た花は、固く閉じられた鉄製の扉を前に右手をノックの形に握り締めた状態で固まっていた。
実を言うと彼女、この研究室に近付く際には十分気を付けるよう、兄弟たちに言い聞かされていたのだ。

曰く、「此処にこもっている間のヒカリは、まるで別人のように恐ろしい」との事。
そんな話を常日頃聞かされている手前、おいそれと声を掛けて良いものかと困惑してしまったのである。


「……。まあでも、呼んだのはヒカリさん本人なんだし、きっと大丈夫、だよね…」

 

暫くの間、その場に立ち尽くしていた花だったが、やがて覚悟を決めたようにゴクリと生唾を呑み込むと、眼前の扉に拳を打ち付けた。

コンコン。軽やかなノックの音が響き渡る。
だがしかし、待てど暮らせど、部屋の主からの反応は一向に返って来なかった。


「あれ、…おかしいなぁ…」


困惑気味に一人ごち、もう一度ノックしようと右手を構えたその時。

──プシュン。
まるでタイミングを見計らっていたかのように、思いの外すんなりと重い扉が開かれた。


「し、失礼しまーす…」


初めて入室する研究室内部に、ドキドキと心臓を高鳴らせながら足を踏み入れる。
二、三歩程進むと、唐突に花の背後で扉が閉まった。
その音に、ぴゃっと肩を跳ねさせつつも、自身を呼び付けた人物の姿を探して更に奥へと進んでいく。


ややあって、ヒカリの仕事机と思しき広いテーブルが視界に飛び込んできた。
テーブルの上には、何に使うのか皆目見当のつかない謎の機械や、コンピューターが所狭しと置かれている。
またその足元には、たくさんの書類が好き放題に散らばっており、足の踏み場もないとはまさにこの事か、と花は思わず苦笑った。


「………、う…」


そんな折り、室内の何処かから低い呻き声のような音が聞こえ、花はキョロキョロと辺りを見回した。
すると、数秒もしない内に彼女の両目が捉えたのは、床に倒れ伏したヒカリの姿であった。


「…!な、ちょ、ちょっと、ヒカリさん!?」


うつ伏せで倒れ込んでいるヒカリに目を剥き、慌てて駆け寄る花。
ぐったりとした彼を抱き起こしてみると、その顔は恐ろしい程に青ざめていた。

まさか、体調が悪いんじゃ…!だとすれば、急いでウルトラの母を呼んでこなければ、と立ち上がろうとした花を止めたのは、意外にもヒカリ本人であった。


「…う、うう、…花…」

「は、はい!何ですか、ヒカリさん!」


くぐもった声で話し始めたヒカリの声を一言一句聞き漏らすまいと、口元に耳を近付けて神経を集中させる。
その所為で耳に熱っぽい吐息が触れたが、今はそんな事を気にしている場合ではない、と頭を振った。


「………は、腹が…」

「お腹?…あ、お腹痛いんですか!?」

「ち、が……う…」


“腹が”と告げた彼の言葉から察するに、よもや急な腹痛に見舞われたのかと思い問い掛ける。
しかし、どうやらそうではないらしく、ヒカリはゆるゆると首を横に振ってみせた。

では一体、彼の身に何が起こっているというのだろう。
花は焦りと緊張で半ば半泣きになりながら、ヒカリの次の言葉を待った。


と、その時である。

くぎゅるるるる…という何とも不思議な音がしたのと、ヒカリが気恥ずかしそうにそっぽを向いたのは、ほとんど同時の事であった。


「……」

「………何、今の音…」

「……………、……すまん」


たっぷりの沈黙の後、ヒカリがか細い声で白状した。
単に腹が減っていただけだ、と。


「…一体、いつから食べてないんですか」

「……。恐らく、2日程…」


地を這うような声で問うた花に対し、視線を逸らしたまま呟くヒカリ。
それを聞いた瞬間、沸々と怒りが込み上げてきたが、今の彼に怒りをぶつけるというのも何だか馬鹿らしく、花はやれやれ。と頭を抱えた。


「………はああ…」


次いで、花は長い長い溜め息を吐くと、抱き起こしていたヒカリの身体からパッと手を離した。
その結果、事前に何も伝えていなかった事もあって、彼の身体は床に叩き付けられる格好となる。


「痛…!…お、おい、花…」

「ご飯」

「は?」

「ご飯作ってきますから、暫くそこでひっくり返っててください」


良いですね?背後に不動明王の姿を纏いながら、にっこりと微笑み告げる花。
ともすれば、ゴゴゴゴゴ、という地鳴りが聞こえてきそうな光景に反論など出来るはずもなく、ヒカリは口の端を引き攣らせて頷くしかなかった。









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