short〈ウルトラ〉
□10,000hit フリリク企画E
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※注意※
夢主、光の国滞在設定!
ある日の事。ひょんなことから光の国にやって来てしまった地球人──佐倉花は、暇潰しがてら散歩という名の冒険に勤しんでいた。
ウルトラの父と母によって提供された部屋で読書をしているという手もあったのだが、同じく暇なのだろうゼロやダイナが突然乗り込んでくる事がままある為、朝食の後片付けを終えたと同時に部屋を抜け出してきたのである。
プラズマスパークの暖かな光が注ぐ、銀の広場をテクテクと歩く。
道中、擦れ違ったユリアンにお茶に誘われたが、若い女子特有の恋バナに巻き込まれそうだったので適当な理由をつけて断った。
「うん?…あれ、あそこって…公園…?」
そんな折り。広場の奥の方、立ち並ぶ建物の合間に隠れる形で姿を現したのは、小さな公園だった。
公園、といってもブランコやシーソーなどの遊具があるわけではなく、青々と茂った木々が幾本か植えられ木製のベンチが並べられた、いうなれば休憩所のようなもの。
地球でのソレを模しているのか、足元は見慣れたエメラルドグリーンの人工床ではなく、野草や小花が所狭しと覆い茂っていた。
「うわあっ、光の国にこんな場所あったんだぁ!」
久方振りに見た地球らしい風景に、花の心が躍る。
周辺に人気が無い事を確認してから、大きな独り言と共に足早に公園へと足を踏み入れた。
逸る気持ちを抑え、足元の芝生を踏む。
その感触は地球のものと全く同じで、たまらず花はその場にうつ伏せで寝転んだ。
「あー、良い匂い。…緑の匂いだ」
スウと大きく息を吸う。
途端鼻腔を掠めた草の香りに、自然と頬が緩まった。
にまにまとだらしなく笑いながら、柔らかな草の絨毯の感触を堪能する。
──ああ、こんなに素敵な場所があるなら、お弁当の一つでも持ってくれば良かった。
心内でそんな事を考えつつ子供のようにコロンコロンと左右に転げ回っていた花は、不意に感じた視線におや?と顔を上げた。
「ふぁっ!?」
顔を上げたと同時に、少し離れた場所から此方の様子を窺っているウルトラ戦士と目が合い、花の口から素っ頓狂な声が飛び出す。
銀色の体が特徴的な青年は寝転ぶ花をジッと観察していたかと思うと、ゆっくりと此方へ近付いてきた。
「こ、こんにちは」
もしや、先程の大はしゃぎを見られていたのだろうか。
だとしたら、恥ずかしすぎて死んでしまう…!ひいっ、と声にならない悲鳴を上げながら飛び起き、花は初めて出会った名も知らぬ青年にペコリと頭を下げた。
「この国に、こんな場所があったんだな」
「え、…あ、そ、そうですね。…って、私も今日初めて来たんですが」
「そうか」
サクサクと芝生を踏みしめて近付いてきた青年は、キョロキョロと辺りを見回しながら小さく呟いた。
独り言のようなそれに応じてやりつつ、にへらと照れ笑いを浮かべる。
それに釣られる形で微笑む青年に、ほんの少しだけ鼓動が早まった気がした。
「と、ところで、…えーと…」
「うん?…ああ、すまない。私はエックス。ウルトラマンエックスだ」
「あ、どうも。…あの、どうして此処に?」
「いやなに、少し用があってこの星を訪れていたら、えらく楽しそうな君を見付けたから」
まあ、ただの興味本位だ。そう言って器用にウインクをしてみせる青年、もといエックスの言葉から想像するに、やはり先程の大はしゃぎをバッチリ見られていたようだ。
『穴があったら入りたい』とはこの事か。
もんどり打ちたい衝動を堪えつつ、うつ伏せたままだった体勢を元に戻しその場に座り直す。
次いで、羞恥で赤らんでしまった頬の熱を手のひらで作った扇で冷ましながら、花もまた自身の名前を告げた。
「花か。うん、君らしい名前だ」
「そ、そうですか。そりゃどうも…」
恥ずかしいやら何やらで、ろくに目を合わす事が出来ないまま顔を俯かせる花を、キョトンと不思議そうな表情で見つめるエックス。
柔らかな美声と爽やかなルックスを持ち合わせた、俗に言うイケメンの部類に当てはまる青年との対話に、彼女の緊張は強まるばかりであった。
「ん?」
と、そんな時だった。
何かに気付いたらしいエックスが短く呟いたと同時に、屈めていた腰を持ち上げて花の脇を通り過ぎた。
突然の行動に疑問符を浮かべつつ、スタスタと歩を進める彼の後ろ姿を目で追う。
ややあって、目的地に到着したと思しきエックスが立ち止まった場所へ、花もそろそろと近付いた。
「うわあ!シロツメクサだぁ!可愛いー!」
緊張気味に近付いてすぐ、花は自身の足元にある白い存在に気が付いた。
それは誰しも一度くらいは目にした事があるだろう、馴染み深い小花の塊。
『四つ葉のクローバー』の呼び名でも有名な、シロツメクサの群生だった。
「ほう…。シロツメクサ、というのか」
「はい!白くてちっちゃくて、すごく可愛いでしょ?」
「ああ、確かに」
きゃあきゃあと興奮気味にはしゃぐ花を横目に、エックスもまたその場に跪いて白い花弁をそっと撫でる。
少しでも力を込めれば容易く折れてしまいそうなそれは、彼女の言葉通り儚く愛らしかった。
「でも、本当懐かしいなあ。昔は、これでよく花冠とか作って遊んでたんですよ」
「冠を?…こんなもので一体どうやって…」
「良かったら、一緒に作りますか?」
教えますよ。そう言ってふんわりと笑う花に、エックスは思わず面食らった。
雑草にも似た花で冠が作れるという話も驚きなのだが、こんなに間近で人間と会話する事自体初めてだった為、少しばかり困惑してしまったのだ。
だが、折角の申し出だ。無下に断るのも申し訳ない。
エックスはそう判断すると、少しの沈黙の後、躊躇いがちにコクリと頷いた。
「ここをくぐらせて…、そうそう、その調子です!」
あれから花とエックスは、顔と顔とを突き合わせて花冠の製作に取り組んでいた。
シロツメクサの茎を長めに手折り、こんなもので本当に冠が作れるのか、と訝しむ彼にも分かるように、一つ一つ丁寧に手順を説明していく。
それが功を奏したか、はたまた手先が器用だったのか。
10分もするとエックスは手順を完璧に理解したらしく、驚異的な集中力を発揮して花同士を組み合わせる作業に没頭し始めた。
「ふふ…」
とても初めてとは思えない手付きに感動しつつ、花もまた着々と花冠を作り上げていく。
あと5,6本組み合わせれば完成、という部位までこぎつけたところで、不意にエックスが「よし!」と呟いた。
「出来たぞ、花」
「え、もう?ちょ、早くないですか?」
「やり方さえ覚えれば、意外と簡単だったからな」
そう答えるエックスの手元には、それは見事な花冠が鎮座している。
その道のプロが作ったと言っても過言ではない素晴らしい出来栄えに、花は思わず感嘆の声を漏らした。
「すごーい!上手ですね」
「はは、だろう?」
お世辞抜きでそう称賛すると、エックスは自慢げに胸を張ってみせる。
見た目にそぐわない、何とも子供っぽい仕草にクスクスと笑いつつ、負けじと花も作業を再開した。
「これで、…よしっと。…ほら、私も出来ましたよ!」
「おお、君だって上手いじゃないか」
「えへへ」
見て見て!そう言わんばかりに、出来たてホヤホヤの花冠を掲げてみせる。
少し急いてしまった事もあり最後の方は若干花弁が乱れてしまったが、数年ぶりに作ったわりにはなかなか上出来じゃないか、と心の中で自賛した。
「おっと…、マズい。もうこんな時間なのか。随分、長居をしてしまったようだ」
「え?」
そんな折り、不意に傍らのエックスが身動ぐ気配がし、花もその動きを追う形で視線を向けた。
彼の視線の先に建っていたのは、何処にでもあるごくごく普通の時計台。
凝ったデザインが特徴的な、美しい銀色の時計台だ。
見れば時計の針は午後2時を示しており、エックスの言う通り随分と長居をしてしまっていたようだと気付く。
「そろそろ帰りますか?」
「ああ。私の事を待ってくれている者達がいるからな」
花の問いに対しそう答えながら、エックスはおもむろに立ち上がった。
臀部に付着した土を手のひらで払いつつ、一度その場で伸びをする。
そうして続けざまにコキコキと首を鳴らすと、軽く地面を蹴って上昇した。
「君と話せて楽しかった。ありがとう、花」
「いえ、此方こそ。…あ、そうだ!良い事思い付いた!エックスさん、少し屈んでもらっても良いですか?」
「?」
地上から数m浮上し、軽く片手を振るエックス。
別れの挨拶を終え、空中で踵を返した後ろ姿に向かって頭を下げようとした刹那、花はふと右手に握ったままだった花冠の存在を思い出した。
同時に自身の脳裏に妙案が思い浮かび、目尻を緩め声高にそう告げる。
するとエックスはコテンと首を傾げつつも、彼女に言われるがまま腰を屈めた。
「動かないでくださいねー。…ん、よいしょ、っと!」
「!」
ややあって花は目一杯腕を伸ばすと、自身より高い位置にあるエックスの頭部目掛けて花冠を放り投げた。
幸い冠は地面に落下する事なく、どうにかこうにか彼の頭に乗ってくれた。
といっても耳付近から伸びる赤い角に引っ掛かる形となったのだが、それでもエックスを驚かせるには十分過ぎる材料となったようだ。
目の端にちらつく白い塊と花とを交互に見つめ、動揺の声を漏らすエックス。
その人間染みた反応を満足げに見上げながら、彼女はおもむろに口を開いた。
「知ってますか?エックスさん」
「は?え、何が?」
「このシロツメクサには、『幸福』っていう花言葉があるんですよ」
幸福…?サワサワと吹き抜ける風に乗って、エックスの静かな声が響く。
対する花はコクリと軽く相槌を打ち、更にこう続けた。
「『貴方に幸せが訪れますように』。──そういう願いが込められているそうです」
「……」
素敵ですよね。柔和な笑みを浮かべる花の髪が、一陣の風によって舞い上がる。
結果、綺麗に纏まっていた黒髪が乱れてしまったが、さして気にする事もなく手櫛でそれを整えた。
「…人間は、不思議な事を考えるんだな」
「それは、褒め言葉として受け取っても?」
「勿論。…ん。なら、これは私から」
エックスはボソリと呟くと、宙に浮かんだまま花の方へ距離を詰めた。
そして彼女が疑問の声を上げるよりも早く、幼い頃に読んだお伽噺の一場面と同じように、恭しい手付きで自作の冠を花の頭部に据え置いた。
「君のこれからに沢山の幸せが訪れるよう、遠く離れた宇宙から祈っている。また会おう、花」
「……はいっ!」
嬉々とした表情と共に大きく頷いた花を最後にもう一度だけジッと見据え、エックスは彼女に背を向ける。
そうして後ろ手に右手を振ると、振り向く事なくそのまま一気に宙へと浮上した。
「また、…また会いましょうねー!」
風に乗せた台詞は、彼の耳に届いただろうか。
否、きっと届いているに違いない。
空の彼方へ消えていく銀の背中を見送り、花はエックスからの贈り物を抱え、足取り軽く公園を後にした。
──ちなみにこれは余談だが、花冠を角にぶら下げて地球に戻ったエックスがXioの面々からの質問攻めに見舞われるのは、それから数時間後の事である。
後書き⇒