short〈ウルトラ〉

□10,000hit フリリク企画F
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※注意※
夢主、光の国滞在設定!












ポカポカとした陽気に包まれる、心地良い春の事。
エメラルドグリーンの光が反射する広場。そこをぐるりと一周する形で配置されたベンチの一つに腰掛けながら、中央で組み手をしている赤と青の二人組──もといレオとゼロの師弟コンビを眺め、花は重い溜め息を吐いた。


「もうすぐ半年か…」

「何が?」

「そりゃあ、私とレオさんが付き合い始めて…って、お、王女様!?」


誰に言うでもなく一人ごちた呟きに対する質問に途中まで答えかけ、ぴゃっと肩を跳ねさせる。
聞き覚えのある声に慌てて後ろを振り向くと、一体いつの間にやって来ていたのか、キョトンと不思議そうな顔をしたユリアンがそこに居た。


「んもう!王女様だなんて水臭いわね。普通に呼んでよ、普通に!」

「で、でも…」

「ユ・リ・ア・ン!」

「ユ、ユリアン…」


グイグイと距離を詰めてくる彼女の剣幕に気圧され、ひとまず名前を呼んでみる。
するとユリアンは、よしっ!と満足げに微笑んで、詰めていた距離を元に戻した。


「で?何か悩み事?」

「!…な、何で知って…」

「…あのねぇ。あーんな大きな溜め息吐いてたら、誰だって分かるわよ」


そう言って呆れ顔を浮かべてみせたユリアンは、はーやれやれ。という呟きと共に彼女の隣に腰を下ろした。

どうやら、話を聞いてくれるらしい。
一国の王女相手に相談事だなんて、恐れ多くて出来ない。そう思い渋る花だったが、彼女の思いやりを無下には出来ないと判断し、やがておずおずと口を開いた。


「わ、笑わないでくださいね…?」

「ええ」

「…その、王女、あ、ユリアン、から見て、私ってどう見えますか?」


どういう意味?ユリアンが、コテンと首を傾ぐ。
そんな彼女の頭上に大きなクエスチョンマークがハッキリと見え、花は自身の言葉足らずを後悔した。


「あ、えーとですね。…つまり、お、女らしいかどうか、っていう意味なんですが…」


改めてそう言い直した直後、急激な羞恥に見舞われ花の頬が朱色に染まる。
頬を赤らめる様子を横目で見つめていたユリアンは、一拍置いて「ははーん」と目を細めた。


「レオの事ね」

「ぅ…」


図星をつかれ、真っ赤な顔で視線を彷徨わせる花。
挙動不審という表現がしっくりと当てはまる初々しい反応に、ユリアンは妖艶な笑みと共に膝を組んだ。


「貴女の悩み事、私、分かっちゃったかも」

「え!?」

「大方、レオが全然手を出してこないんでしょう?」


クスクスと艶やかに微笑みながら、まるで内緒話でもするかのように花の耳元で囁くユリアン。
その的確過ぎる台詞に、治まりかけていた頬の熱が再びぶり返した。


「あ、いや、えっと、あの…」


まさか彼女、心の中を読めたりするのだろうか。王族ともなれば、案外簡単な事なのかもしれない。
そんな馬鹿げた想像をしてしまいそうな程にピタリと悩みを言い当てられ、花はあわあわと唇を震わせる。

一方のユリアンは彼女の反応が余程面白かったのか、王族らしく口元を手で隠しながらケタケタと笑い続けていた。


「っはー、もう、花ってば可愛いわー。レオみたいな堅物が惚れるのも頷けるわね」

「か、可愛…!?…や、やだ、恥ずかしいです…」

「ウフッ、そういう反応、本当たまんない。……なーんて、冗談はさておき。花、貴女はこれからどうしたいの?」


初心な花をからかう事に成功し満足したのか、ユリアンは先程までの態度をコロリと一変させると、今度は真剣な面持ちを浮かべてそう問い掛けた。

射貫くような眼差しを一身に受け、俯かせた視線の先でモジモジと指先をくねらせる。
そうして沈黙を貫く事数分、花は蚊の鳴くような声で小さく囁いた。


「…レオさんに、もっと触れて欲しい、です…」

「……」

「手だって繋ぎたいし、キスも、その先も…、したい…」


そこまで言って、花は慌てて口を噤んだ。
何だか自分が物凄くはしたない存在のような気がして、居たたまれなくなってしまったのだ。

自身の隣で身を縮こまらせる彼女を一瞥し、ユリアンはフッと目尻を緩める。
そしてベンチに腰掛けたまま真後ろを振り向くと、何とも楽しげな口調でこう言い放った。


「──だ、そうよ?レオ」

「ふぁっ!?」

「……」


ユリアンの口から飛び出した人物の名に、素っ頓狂な声を上げる花。

な、な、と声にならない悲鳴を上げながら身体を後ろへ捻ったのも束の間、視界に飛び込んだ見慣れた赤い体躯に絶句する羽目となった。


「え、や、嘘、な、何で…!?」

「ごめんなさいね、花。テレパシーで呼んじゃった」

「よ、呼んじゃった、って…、う、嘘だああっ!!!」


茶目っ気たっぷりにウインクしてみせるユリアンは、相も変わらず妖艶な笑みを浮かべている。
その意地の悪い笑みに、花は両手で頭を抱え項垂れた。


「そういうのはね、本人と話すのが一番なのよ」


ってなわけで頑張って!パチリ。これまた綺麗なウインクを最後に、ユリアンはベンチから腰を持ち上げた。
そして、苦虫を噛み潰したような表情で固まっているレオの肩を軽く叩き、ついでに状況を吞み込めていないらしいゼロの腕を掴んで踵を返す。

何すんだよ!案の定ゼロがぎゃあぎゃあと喚きだしたが、抵抗も虚しくユリアンに簡単に抑え込まれ、半ば強引に引きずられていった。


「……」


一方その場に取り残された花は、羞恥と絶望が入り混じった面持ちのまま、傍らのレオを仰ぎ見た。

視線の先の彼は、口元を手のひらで覆い隠し、キョロキョロと視線を彷徨わせている。
この反応から察するに、先程の発言をバッチリ聞かれてしまっているのは、誰の目から見ても明らかであった。


「……え、えーと…」


余計なお節介を焼いてくれたユリアンを心内で恨みながら躊躇いがちに口を開くが、上手く言葉が紡げず、ごにょごにょと口籠るしか出来ない。
ならばいっそ、この場を逃げ出してしまおうか。混乱する脳が導き出した答えを実践すべく立ち上がり掛けた花を制したのは、他でもないレオであった。


「待て!…いや、待ってくれ。頼むから」


中腰の彼女の肩を掴み、その場に縫い止めるレオ。
懇願するような切ない声音に小さく溜め息を吐くと、花は再びベンチに腰を落ち着けた。









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