short〈ウルトラ〉

□10,000hit フリリク企画G
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※注意※
夢主、光の国滞在設定!












「おいこら、タロウ。そうブスくれるなよ。仮にも任務中なんだから」

「フン!誰の所為だよ、誰の!」


光の国、某所。ブラザーズマントと呼ばれる赤い外套を身に纏う青年二人──もとい、エースとタロウの兄弟は今、とある貴族の警護任務に当たっていた。
警護といっても別段気を張るようなものでもなく、警備隊本部内にある貴賓室へ彼らを案内し、見送りをするだけという至って簡単なものだ。

だからこそ、こうして会話を交わす余裕もあるという訳なのだが、あいにく二人の間に和気藹々とした空気は少しも流れていない。
何故なら、任務の最中にも関わらず、タロウが不機嫌な面持ちを浮かべてブスくれているからだ。


「兄さんの馬鹿!おたんこなす!っ、童貞!」

「な…っ、童貞は余計だろ!」


──では何故、普段温厚な彼がこうも不機嫌なのか。
それは、久方振りに取れた休日を満喫していた折りに、急遽呼び出しを食らった為である。
しかも「その呼び出しをしてきたのが兄・エース」という拭いようのない事実が、殊更タロウの機嫌の悪さを強めているようだった。


「折角、花とデートする予定だったのに…!」

「だーかーらー、何回も謝ったじゃないか。ったく、いい加減しつこいぞ!」


腕を組み、ぶちぶちと文句を垂れる弟を一瞥し、溜め息交じりに吐き捨てるエース。
だがタロウは余程腹に据えかねているらしく、子供のように頬を膨らませるばかりだ。


「俺がさ、どれだけ今日を楽しみにしてたと思う!?」

「知らん!やかましい!」

「水族館行って、高級フレンチで食事して、夜は花の部屋でたっぷりイチャイチャするつもりだったんだから!」


それもこれも、ぜーんぶ兄さんの所為だー!人目も憚らずわあわあと喚き続けるタロウに、エースは指先で頬を掻き毟りつつ首を振った。

こうなった時のタロウほど、面倒臭いものはない。
その事をよく理解している手前、非難する気にも到底なれなかったのだ。


「(ああ俺、人選誤ったかも…)」


エースは心内でそう一人ごちると、二時間前の自身の選択を深く後悔した。








あれから更に数時間後。
長かった任務を終えたタロウは、赤いマントを翻し、エメラルドグリーンの空を舞っていた。

現在時刻は、既に18時を回っている。
昼過ぎには終わる予定だったというのに、何だかんだと長引いてしまい、気付けば辺りは夕闇に包まれていた。


結局、予定していたデートが全て台無しとなってしまい、兄に対する怒りが沸々とぶり返し始めたが、くそっ!と苦々しげに吐き捨てるだけに止める。
途中擦れ違ったメビウスからの挨拶をも無視し、全速力で駆け抜けた事が功を奏したのか、10分もせぬ内に目的地でもある少女の部屋の前に到着した。


「……」


タロウは乱れた呼吸を整え、ゴクリと喉を鳴らしてから呼び鈴に手を伸ばした。
そして、ベルのマークが描かれたボタンを押そうと、指先に力を込めたその時。


「あ!やっぱりタロウさんだ!」

「!」


呼び鈴を押すよりも早く、扉の向こう側からひょっこり顔を覗かせたのは、地球人の少女──佐倉花。
タロウの恋人でもある彼女こそ、今回の一連の騒動で迷惑を被った一番の被害者である。


「お仕事、お疲れ様です」

「花…」

「ふふ、…もう。何て顔してるんですか」


いつもと変わりない笑顔で自身を迎え入れた花に、タロウは眉尻を下げて項垂れる。
逞しく、頼りがいのある優しい教官。そんな評判からは想像も出来ない姿に、彼女はクスクスと笑みを零した。


「さ、とにかく中へどうぞ」


尚も落ち込んだままの彼の手を取り、室内へと誘導する。
促されるままに室内へと足を踏み入れたタロウは、自身の手首を掴んでいた花の手を逆に握り締め口を開いた。


「っ、ごめん!」

「んもう、何で謝るんですか。お仕事だったんだから、しょうがないでしょう?」

「でも…」

「いーの!ほら、そんな事よりタロウさん!ちょっと、こっち来てください!」


深く頭を垂れて謝罪の言葉を口にするタロウをいなし、首を傾げながら応じる。
だがそれでは気が治まらないのか、尚も食い下がろうとしてきた彼を強引に遮って、花はタロウの腕を掴んでグイグイと引っ張った。


花に腕を引かれ辿り着いたのは、彼女一人で過ごすには少しばかり広いリビングルーム。
彼女がこの国で暮らす事になって以降、父と母、兄弟たちで金を出し合い、家具を一式プレゼントした事もある馴染み深い部屋だ。

その部屋の中央、母が見立てた洒落たデザインのテーブルの上に広がっていたのは、白いテーブルクロスと何本かのキャンドル立て。


「こ、これ…」

「えへへ、高級フレンチには程遠いけど…、…頑張って作ってみました」


どうですか?そう言って笑う花の側では、何とも旨そうな料理が温かな湯気を立ち上らせていた。

トロリとしたビーフシチューに、こんがり焼かれたバジル風味のバゲット。
トマトやパプリカに彩られた、新鮮なグリーンサラダ。

確かに高級とは程遠いが、手作り感満載のそれらが自身の食欲をそそる事に変わりはない。


タロウは驚愕と感動が入り混じった表情を浮かべ、改めて花の方を振り返った。
すると彼女は、照れ臭そうに頬を染めてからこう呟く。


「デートしませんか?今から、此処で」


へにゃり。口角を緩めて告げる花は、何よりも愛らしく、それでいてとても美しかった。
タロウは呆けていた表情を元に戻すと、目の前の小さな身体を強く抱き締め、熱を孕んだ声で囁く。


「──それは、泊っても良いって事?」

「…良いですよ」


彼の言葉が何を意味するのか、それが分からない程、無知でも初心でもない。
花は、ゾワゾワと疼く身体には気付かぬ振りをして、しっかりと鍛え抜かれたタロウの背中に腕を回した。








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