short〈ウルトラ〉
□過去拍手文
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「ああ、居た居た。おーい、花くーん」
今日も今日とて散歩に明け暮れていた花は、ふと背後から呼び掛けられ後ろを振り向いた。
しかし誰も居ない。うん?と頭上に幾つもの疑問符を浮かべる彼女に、「此処だよ」と再び声が掛かる。
耳に心地よい柔らかな声音は、どうやら遥か上空から聞こえてきたようだ。
目を瞬かせながら視線を上げた花は、両目が捉えたその姿に頬を紅潮させた。
「初めまして、かな?こんにちは、花くん」
「は、は、はひ」
「ハハハ。何だい、その返事は」
すうと目の前に降り立った人物、かの有名なウルトラマンとの初対面に花はピシリと固まった。
緊張でおかしな返事を返してしまった花に、クスクスと愉快そうに微笑むウルトラマン。
まさかの遭遇に、何を言えば良いのか分からず視線を彷徨わせる花に近付き、彼は大きな手のひらで頭を撫で付けた。
「噂には聞いていたけれど、思っていた以上に随分可愛らしいお客さんなんだね」
「かわ…っ!?」
あのウルトラマンの口から「可愛い」という単語が出るだなんて、一体誰が想像しただろう。
それは花もまた然り。甘いマスクと優しい低音が紡ぎ出した台詞に、紅潮していた頬を更に赤らめて俯いた。
「…か、可愛いなんてそんな…あたしなんて普通です」
「おや、そうかい?本当の事なんだが」
耳まで赤く染め上げながら紡いだ必死の抵抗も、さらりと躱されてしまう。
穏やかそうな顔立ちをしている割りに、意外にも天然タラシな一面があるようだ。
うぐ、と言葉に詰まりながらも、赤くなった頬を冷やすように手で扇ぎつつ花は口を開いた。
「え、えっと、何かご用ですか?」
「ああ、特に用がある訳じゃあ無いんだがね。任務帰りに見掛けたから、声を掛けさせてもらったんだよ」
「任務…?あ、パトロールとか?」
正解。そう言って頷いたウルトラマンに頬を緩める。
その笑顔を見ながら、やっぱり可愛らしいじゃないか。などと彼が考えているとは露知らず、若干緊張が解れた花はトタトタと靴底を鳴らしてウルトラマンの元へ駆け寄った。
「あの、お願いがあるんです」
「私に出来る事なら」
「じゃ、じゃあ、一緒に空を飛んでくれませんか!?」
小さい頃からの夢だったんです!興奮気味に告げた花にウルトラマンは一瞬面食らったが、ややあってコクリと頷き彼女に向けて手を差し出した。
伸ばされた手と目の前の彼の顔とを交互に眺め、呆けた表情を浮かべる花。
そんな彼女に小さく吹き出して、ウルトラマンは言った。
「空、飛びたいんだろう?ほら、私に掴まりなさい」
まるで内緒話をするかのように唇に人差し指を押し当てて言うウルトラマンに、花はパアッと顔を明らめながら彼の手のひらを握り締めた。
途端、ふわりと身体が浮き上がり、ひゅっと喉が鳴る。
飛行機の離陸とは似ても似つかない感覚に、ウルトラマンの手のひらを握る手に力を込め目を閉じた。
「花くん、目を開けてごらん」
「…っ、や、ちょ、ちょっと待って、怖い」
「大丈夫。絶対に離さないから」
力強い言葉に後押され、薄らと目を開ける。
瞬間、花の視界いっぱいに広がったのは、クリスタルが美しく輝く光の国そのものであった。
遠くに見える、一際高い建物は何だろう。
天辺で淡く光る物体。それこそが光の国の太陽──プラズマスパークである事など知る由もない花は、子供のように無邪気にはしゃいでいた。
「う、わぁ…っ!すごいっ、綺麗ですね!」
「ありがとう。…どれ、もう少し高く飛んでみようか」
「…あ、いえ、これ以上は流石に怖いので大丈…って、いやあああああっ!!!」
きらきらと目を輝かせていたのも束の間、ウルトラマンのちょっとした悪戯心の犠牲となった花は、一気に加速し高度を上げた彼の耳元で甲高い悲鳴を上げる事になった。
それを聞いていたウルトラマンは、何とも楽しそうに微笑んでいたという。
その一時間後、げっそりとやつれた花の姿が見られた、というのはまた別のお話────。