青氷姫
□寓話的な伝承或いは……
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「エース以外、全員集まったな」
白ひげの言葉に、マルコが頷く。2番隊は遠征中なので、隊長のエースも出かけていて不在だった。
何のために集められたのか知らない隊長たちの視線は、白ひげの脇に立つビスタが連れている子供に集まっていた。
「ビスタの隠し子か?」
誰かが言えば
「なんで隠す必要があるんだ」
と他の誰かが笑う。
「確かにな」
「違ぇねェ!」
更に笑いが大きくなる。
「ありゃあ、ビスタんとこの隊員だろ」
漸くまともなことを言ったのは16番隊の隊長イゾウだ。
「しかし、アイツはあんなに小さかったかい?」
子供は、なぜかその言葉に反応して、居心地悪そうに下を向いた。が、その刹那、先ほどまで気絶していて漸く息を吹き返したばかりの、所在無げに部屋の片隅に座り込んでいた男が憑かれたように突然大きな声を上げた。
「アレン!」
叫んだのはグローリーだった。その表情は歪み、目が吊り上がっていた。
「これまで通りに、ここにいる全員に暗示をかけろ!お前の身を守るために!お前の!ためなんだぞ!!」
名を呼ばれたアレンは怯えたように肩を震わせた。しかしその肩をしっかりと抱いたビスタが、アレンの顔を覗きこんで横に首を振った。それを見たアレンはホッと息を吐き、グローリーから目を反らした。
言うことを聞かないアレンに焦れたグローリーが、更に大声を張り上げながら近づこうとした。が、癇に障ったらしいマルコがそれを許さなかった。
「黙れよい!」
軽い蹴りだったがきれいに鳩尾に入ったらしく、吹き飛ばされたグローリーは再び白目を剥いて気絶した。
「なんでお前ぇがキレてんだ、マルコ」
珍しいこともあるもんだ、と白ひげに笑われたマルコは、何となく気に食わなかったんだよい、と首に手をやった。
「誰かそいつを仕置き部屋に放り込んでこい」
白ひげの言葉に、扉のそばにいた3番隊長のジョズがグローリーを担いで出ていった。
ジョズが戻ってきたところで、改めて白ひげは息子たちの顔を見回した。
「少し込み入った話をしなきゃならねぇ」
前置きをして、ビスタに抱えられていたアレンを手招きして呼び寄せた。
呼ばれるまま白ひげに近づいたアレンは、ヒョイと膝の上に乗せられた。隊長たちを見下ろす位置に座らされて、アレンは困惑の表情を浮かべて俯いた。
そんなアレンの様子を気にすることなく、白ひげは徐に話し始めた。
「知ってる奴も知らない奴もいるだろうが、こいつはアレンだ。とりあえず」
「とりあえず?」
サッチが首を傾げる。
「まぁ黙って聞け。こいつはアレグロ兄弟と名乗ってて、さっき騒いでたグローリーって野郎と一緒に正式には5年くらい前からうちにいる。ホワイティ・ベイから預かって、な」
「知ってる。ベイがモビーに寄る度に様子を聞いてくる」
相槌を打ったのはジョズだ。へぇ、とサッチが反応すれば、マルコも知らなかったとジョズを見る。当然ビスタは知っていたらしく、ジョズにも尋ねていたのか、と呟いた。
「ちなみに『正式には』っつったのは、こいつだけを預かったのはもっと前から、だからだ」
白ひげが始めに前置きした通り、話はややこしいらしい。
「アレンをモビーに乗せたのは、もう10年近く前の話だ」
10歳ぐらいの子供の姿をしているのに10年ぐらい前から乗っているという。モビーに赤ん坊を乗せたことはないから、やはりずっと成長が止まっているということか。
「じゃあ、あの毒兄は?いつからどうしてモビーに乗ってるんだ?」
サッチが尋ねる。確かに尤もな質問だ。
「あいつはな……5年くらい前に現れたんだが、乗せた当初はアレンと関わりのある人間だとは気付かなかった。アレン自身もあいつのことを知らなかったしな。だが」
グローリーはアレンが特殊な存在であることを知っていた。そして、自分はその関係者だと名乗ったのだ。その上で、近くで面倒を見たいから兄弟として扱ってくれと言ったのだ。
「ホワイティ・ベイに確認したら、確かに『関係者』だった。しかも厄介な、な……」