青氷姫


□寓話的な伝承或いは……
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「ベイ姉様はお元気ですか」
 ふと口をついて出た言葉。小さな声だったが皆の注目を一身に浴びてしまい、アレンは困って身じろぎする。

「なんだ、お前ベイとも会ってねえのか」
 白ひげの質問に、兄に止められていたと答えるアレン。
「自分みたいな子供が近寄ると、目立ってしまって姉様に迷惑が掛かると言われてましたし、言うことを聞かないと酷く怒るので…」

 そんなことが迷惑になるかよ!と驚くサッチ。迷惑扱いするうえに理不尽に怒るなんて、親しい者からの目に見えない暴力ってやつかとイゾウが苦々しげに呟けば、ぐっと唇を噛みしめていたビスタがアレンを見上げて、気づいてやれなくてすまなかったと詫びる。意味が解らなかったアレンは、隊長に謝ってもらうようなことは何もない、と慌てた。
 そんなやりとりに耳を傾けていたマルコが、白ひげに問う。

「ベイがこいつを親父に預けた理由ってのは、何だよい?」

 白ひげはアレンの背中を擦ってやりながら、珍しく逡巡しているようだった。

「……簡単に言やあ、こいつの『力』のせい、だな」白ひげが答えた。

「能力者か!」
「そんなにヤベェ能力なのか?!」
 皆が口々に言った。が、白ひげは頭を振った。
「いいや、違う。こいつは所謂『能力者』じゃねぇ。根本的に違うもんらしい」

「こいつの力は悪魔の実を食って手に入れるそれとは全く違う。そもそも」
 アレンの様子を気にしながら話す白ひげは、孫を可愛がる祖父のようだ。

「そもそもコイツ自身が自分に対してできることは『身を守るために必要なこと』のみ。力を持ってるってのは、コイツが誰かの願いを叶える力を持ってる、てことらしい。しかしどうやって叶えるのかも、その対象者の選び方も不明だ」

「……そりゃあつまり、対象者の願いの内容次第じゃ、とんでもねぇことが起きるかもしれねぇってことかよい」

「そうだな。こんな話がある。
『雪山で道に迷った旅人が、青くて丸い卵を丸飲みしようとしている獣からその卵を奪った。よく見るとそれは、卵形の青色の石だった。旅人は海の生まれで、その石がテメェの故郷の海の色に似ていると思ったから懐に入れた』

『ひたすら海を思いながら歩いていると、白い鎧を纏った女が現れて、懐の中の物を返してほしいと言った。旅人が断ると、急に懐に温もりと重みを感じた。驚いて懐を探ると、拾った石と同じ色の髪の子供が入っていた。その子が笑うと雪が止み、視界が開けて海にたどり着いていたことに気が付いた』

『喜んだ旅人はその子供を連れ歩き、色んな願いを叶えていった。だがある時、旅人は大金に目が眩んでその子を手放した。途端に願いが叶わなくなるかと思いきや、願いは変わらず叶い続ける。けどだんだん願いが叶っても楽しくなくなってきた。一緒に喜ぶ相手がいなかったからだ。旅人は一気に衰えた。そこで子供を取り返そうとしたが、その子は既に別の姿に変わっていたのか、旅人には見つけられなかった。旅人は絶望し、絶命した。しかしその直前、故郷の海に帰りたいと強く願った』

『旅人の最後の願いは聞き入れられ、既に魂だけの存在として旅人の傍にいた子供は鳥に姿を変え、旅人の魂を抱いて故郷の海に連れ帰った』」

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