青氷姫


□寓話的な伝承或いは……
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「……まぁ、こんな感じだ。いまのは全てベイの請け売りでな、ベイが幼い頃を過ごした地方で『おとぎ話』として語り継がれている話、だ」

「……おとぎ話かよい」

「おとぎ話だ。だが実際、その地方では50年から100年に1度くらい、力を持って生まれる子供を探して『子供狩り』が行われていた。見つかると、子供は領主の子として引き取られていた」

「!……じゃあ」

「ああ、こいつは子供狩りに遭った時、11かそこらだったらしい。領主の館に連れて行かれたが運良く内乱に乗じて逃げ出せた。だが逃げたは良いが故郷には戻れない。で、別の土地に移る途中でベイの船に拾われて5年くらい過ごしてた。だが、ベイが縄張りにしているのはこいつの故郷の近くだからな、こっちで引き取ることになった。しかし結局あのグローリーと名乗ってる領主の実の息子に見つかっちまったって訳だ」
「内乱で領主の物は全て奪われていて、息子も最早少し剣を扱えるだけのただの男だった。しかしアレンが力を持ってることは知っている。血族とかいうヤツだって判った時は考えたんだぜ、こいつのそばに置いとくのは諸刃の剣だったからな。だがあの野郎は俺にもベイにも、アレンは血の繋がりは無くとも自分の弟だ、弟を守れる力を手に入れたいからしばらく船に置いてくれ、と言った。弟の願いを叶えてやりたいからってな」
「正直なところアイツにはそこまでの力量はなさそうだったがなァ、弟を守りてえっつって必死そうだったし、ベイからも騒ぎが大きくならねぇようにと頼まれてたしな、協力してやろうと思っちまった」その見通しの甘さが結果的にこいつを追いつめることになっちまってたんだ……やりきれねぇや、と白ひげは何時になく消沈していた。

「あ、あの」
 遠慮がちに白ひげの膝の上から声がした。
「あの、船長……」
 聞き慣れない単語にその場にいた皆そろって目をぱちくりさせた。あぁ、まぁ、確かに親父は船長だしな?!と取り繕ってはみるものの、お互いを家族だ兄弟だと呼ぶ彼らにとって、仲間内からその呼び方を聞くのは極めて稀で、結束力を阻害されるような、溝を感じるらしかった。呼ばれた白ひげも同様に感じるらしく、少し寂しそうにアレンの頭を撫でて、俺ァお前ェの親父失格だから仕方ねぇけどなァと呟いた。

 皆の意外に強い反応に、アレンは困って少し首を傾げ、次いで白ひげの言葉に目を見張った。それから暫し躊躇っていたが、意を決したように、はっきりとした口調で尋ねてくる。
「……私も……私でも、親父さま、と呼んでも良いんですか?」

「何言ってやがる!当たり前じゃねぇか、お前ェは俺の大事な家族だ。何年も一緒の船に乗ってたってのに守ってやれてなくて本当に悪かった。今度こそ、俺ァお前ェの親父としてしっかりお前ェを守るぜ」
 白ひげは嬉しそうに言った。

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