青氷姫


□風花(かざはな)の輪舞曲
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 数年前にホワイティ・ベイの船から移ってきた凸凹コンビ。それがアレグロ兄弟だ。背の高い、剣士である兄グローリーと、10歳ぐらいだろうか、小柄だが槍を操る弟アレン。ベイから親父に贈られた積荷と一緒にモビー・ディック号にやってきた。船長たる親父、白ひげの言葉を借りれば「ちょいと暫く預かることになった」だから仲良くしてやれと。自分の船のクルーを息子どもと呼ぶ彼にしては少々回りくどく、歯切れの悪い言葉だった。

 20代前半だと名乗った兄のグローリーは大人しいながらも陽気な男で、他の船員ともすぐに仲良くなった。しかし弟のアレンは全くといって良いほど笑顔を見せず、周りと打ち解ける気配を見せなかった。兄が「あいつは人見知りだから」と取り成すも、兄の後ろに隠れるでもなく、良く言えば飄々とした態度、悪く言えば無関心な態度、を崩さなかった。最初は新しい弟だ!と群がっていたクルーも、愛想が悪いうえに気配も薄いアレンを次第に放っおくようになった。

 兄弟の所属は5番隊だった。しかし彼らはホワイティ・ベイからの預りもののような微妙な立ち位置のせいか、どことなく孤立していた。隊長のビスタだけは時折気にかけていたが、普段の生活も戦闘の際も、常に彼らは兄弟で行動し、周囲とは距離を置き、あまり関わりたがっていないようだった。


**********


 そんなある日。ログを貯めるために立ち寄った冬島でのことだった。水や食料の調達も順調に終わり、後は出航までの時間をつぶすだけだった。ちらちらと雪が舞う中、町の酒場に集う者、ここぞとばかりに女を買う者、当番で残った4番隊を除き、ほとんどのクルーが船を降りていた。

 いつもの喧騒が嘘のように静かな船内で小さく言い争う声が聞こえ、次いでアレグロ弟が甲板に飛び出してきた。

「………断る…!」
 兄への言葉だろうか、必死の面持ちで言い放ち、ふと顔を上げた弟アレンは、甲板で話をしていた4番隊隊長のサッチと1番隊隊長のマルコが驚いた様子で自分を見ていることに気が付いた。明らかに「しまった」という表情を浮かべた彼は、足早に隊長たちの脇を抜け、船から降りていこうとした。

「ちょっと待てよい」
 マルコが通り過ぎようとするアレンの腕を掴んだ。するとアレンは飛び上がらんばかりに驚いて、勢いよくマルコの手を振り解き、驚異的なスピードで船縁まで跳びすさり、積んであった荷箱の陰にその身を潜めた。

「な、なんだよい…?」
 呆気に取られるマルコ。警戒心剥出しで物陰からこちらを睨むアレン。

 そんな二人を交互に見ながら、サッチが頭を掻きつつ苦笑した。
「あー、何だろ、怖がりな仔猫が不意打ちに驚いて、背中丸めて怒ってる感じ…?」
「笑ってんなよい!俺ぁ何もしてねぇよい!」
「まぁ…確かにな!」
「わかってんなら何でそんなにニヤけてんだよい!」
「…マルコ、顔が凶悪だからなぁ。子供にゃキツいんだろ。仕方ないかもな!ははは」
「ははは、じゃねぇよい!ったく!!」
 物陰のアレンは、二人のやりとりに耳を傾けているのかいないのか、周囲の視界から徐々に徐々に外れていった。再びサッチとマルコが顔を向けた時には、警戒の色の濃い気配だけが物陰から漂っていた。

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