青氷姫


□真実を映すもの
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「2番隊が戻ったぞー!!」
 大きな声がエースたちの帰還を告げる。モビーではまだ先ほどまでの戦いの片付けが残っていたが、続々とクルーが集まり、2番隊を出迎えた。

 エースは元気いっぱいにモビーの甲板に降り立ち、開口一番叫んだ。
「腹減った!」
「そこは『ただいま』だろ!」
 すかさず突っ込むサッチ。皆エースの帰還を待ちわびていたようだ。心から楽しそうに笑っている。モビーの甲板の後方からエースの姿を確認したアレンも、皆と同じく、気持ちが綻ぶような温かさを覚えた。

 掃除の続きに取りかかろうとしているとエースの声がした。
「アレン!」
 驚いてそちらを見ると、エースが大きく手を振って呼んでいる。急いで走っていくと、エースが両手を広げて抱き止める体勢で待ち構えている。気恥ずかしかったが、そのままエースに駆け寄ると、腕の中に飛び込んだ。

 マルコもサッチも目を丸くして二人を見つめた。エースは周囲の視線など全く気にする様子もなく、自分の肩までアレンを抱き上げて、大きな口を開けて笑い掛けた。
「アレン!ちょっと見ない間にお前……あれっ?!」
 アレンをまじまじと覗き込むエース。
「双子のそっくりさんじゃねぇよな?お前アレンだろ?」
 もちろん、と訝しげに頷くアレン。
「お前、女だったか?」
 え……とアレンが絶句する。マルコもサッチも仰天してエースを見た。
「なに言ってんだよ、エース!」
 珍しくマルコが狼狽えて動けないでいるのを見て色々と察したらしいサッチが、慌てて近寄ってきた。
「いや、だってよコイツ……」
「とりあえずそいつをこっちに寄越しな!」
「え……」
 二の句を継がせずサッチがアレンを奪い取る。よしアレン、サッチ兄ちゃんと食堂に行こうぜぇ!などと言いながら、そそくさとエースの傍を離れるサッチ。あぶねぇ、さすが野生児!小さな声で呟きながらアレンを連れて船内に逃げ込んだ。

 呆気に取られてサッチの背中を見送っているエースにマルコが尋ねる。
「何で女だと思ったんだよい?女の体だったか?」
「イヤ、全然。てか分かんねぇ。別に触ってねぇし」
「じゃあ何でだ?」
「んー…なんとなく?」
「へぇ……」
「雰囲気、かな?大人っぽくなってるし、女っぽい気もしたな!あ、でももしオネェ系に目覚めたんだったら、区別はつかねぇな!」
 ニカッと笑うエース。良い笑顔で言うことじゃねぇだろうよい、と心の中で突っ込みを入れるマルコだった。

 マルコもエースも、白ひげに報告することがあった。エースは遠征先での戦績や戦果のことを、マルコは身の程知らずのルーキーが仕掛けてきた襲撃のことやグローリーの脱走とそれに対する始末のこと。白ひげは黙って全て聞き終えた。その上でマルコに、他にもう1つくれぇ報告はねえのかァ?と尋ねた。マルコが、いや特には……などと言葉を濁すので、ま、何にしても今夜は2番隊が戻った祝いの宴だ、準備しろ!と言い渡した。

 船長室を出た所で、マルコとエースはビスタに出くわした。ビスタはマルコを探していたようで、この先アレンの部屋をどうするか相談しようと思っていたと言った。グローリーが使っていた部屋をアレンにあてがうのは避けたいというビスタの提案には、マルコも全面的に賛成だった。見繕っておくよい、とマルコが言うと、宜しく頼む、とビスタは戻っていった。

 エースが不思議そうな顔をするので、彼が留守の間に起きた出来事をかいつまんで話してやった。そして、皆の前で男だの女だのと話すんじゃねぇよい、と釘を刺した。エースは納得し、そっか、グローリーのヤツ、ちょっとストーカーっぽいとは思ってたけど、自分の女にしようとして囲い込むとか、結構えげつないヤツだったんだな!と憤った。

「で、アレンの部屋を新しく準備するって訳か……ん?じゃあ昨日まではどうしてたんだ?」
「俺の部屋に置いてたよい」
「えっ?あいつ、マルコの部屋で寝てたのか?」
「あぁ」
「じゃあハンモック持ち込んでか」
「まぁ……持ってはきてたが、ベッドで寝かせてたよい」
「ベッドで?!マジか、信じられん……」
「どういうことだよい?」

 マルコの言葉にエースがいちいち驚く。エース曰く、アレンは誰とも同室で寝ないのだという。男でも女でも、実はグローリーとも、決して同じ部屋では寝ていなかったというのだ。たとえ部屋に閉じ込めておいても、いつの間にか抜け出して、誰にも見つけられないような場所にハンモックを吊り下げ、隠れて寝ていたらしい。
「雑魚寝も絶対にしなくてさ、何でそんなに頑ななんだって聞いたら、特別な相手としか一緒に寝ないっつってたんだぜ!」
 マルコが特別な相手なのか?!あとでアレンにきいてみるか!と無邪気に笑うエースに、マルコは内心の動揺を押し隠すため苦笑するしかなかった。

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