青氷姫


□無自覚プロポーズ
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「アレッタ」
 マルコが声をかけてくる。風邪を引くからこれに着替えろよい、と白いシャツを渡してくる。汗ばんだ身体にシャツが張り付いていた。礼を言って無意識に脱ぎ始めたが、彼の目の前であることを失念していた。
 マルコが焦って、おい、と声を上げる。ハッとした拍子にシャツが肩から滑り落ち、落ちたシャツを拾えば良いのか新しいシャツを受け取れば良いのか迷ったアレッタはその場で硬直してしまった。しかし、動きの止まった彼女を、落ち着いているのと勘違いしたマルコが、いい度胸じゃねぇかよい!と腕を掴んでベッドに引き込んだ。

「っ!!」
 咄嗟に声を抑えるアレッタ。しかしマルコは容赦なく彼女を押し倒す。
「どんだけ俺の理性を試せば気が済むんだよい!」
 何故か半ギレで伸しかかる。よほど我慢しているのだろうか。
「違っ……わざとじゃなっ……!」
 彼女が抵抗しながら弁解を試みるも、彼は彼女の上から退こうとしない。力比べで勝てるはずもなく、アレッタはマルコに組み敷かれて身動きが取れない。

「おい、マルコ!どうした?」
 扉の向こうでサッチの声がした。マルコもアレッタも息を呑んで固まった。何でもねぇよい!と手近にあったシーツやタオルを慌てて引き寄せ、彼女を隠す。が、マルコの言葉を待たずに、サッチが開けるぞ!と扉から顔を出した。

「なにやってんだぁ?お前ら。アレンはもう大丈夫なのか?」

 アレン?思わず聞き返しそうになって、マルコは自分が組み敷いた者の姿を見た。タオルと共に彼の腕の下から顔を出したのは、確かに少年のアレンだった。マルコは心臓が飛び出すかと思うほど驚いたが、必死に声を落ち着かせて、まだ治ってねぇよい、と答えた。
「まだ本調子じゃねぇのに、寝てるのに飽きたっつって起きやがるから、ベッドに押し込んでたんだい」

「上陸までに治しちまわねぇとな」
 頷くサッチ。ちゃんと休んでしっかり治せよ!と言って部屋から出て行く。

 扉が閉まる音がした途端にどっと冷や汗が吹き出した。焦った……と傍らを見れば、もうアレンではなくアレッタがシーツの隙間からマルコのシャツに手を伸ばしている。

「おい!姿変われてんじゃねぇかよい!」
 彼女が掴んだシャツをぐいっと取り上げて言うと、シャツを追って更に手を伸ばした裸身が目に入り、さっきとは別の意味で息が止まりそうになる。

「マルコ隊長……」
「『隊長』は要らねぇっつったろ」
「……マルコ、も『少年』の姿を私に望んだんでしょう?だから変わったんじゃないかな……」
「は……?俺は別に……」
「で、扉が閉まって、もう必要ないと思ってこっち見たんでしょ?だから元に戻ったんだと思う」
「なんだいそりゃ。お手軽だな」
「だっていくら私が一人で『少年の姿になろう』と思っても変われなかったのに……いま変わったんだもの。ということは、貴方も望んだから、が理由。たぶんね」
「……俺の意思でお前の姿が変わっちまう……のかよい?」
「……私自身も変わろうと思ってないと、たぶん無理。二人で同じイメージを持ってないと……」

 試すようにアレッタの頬に触れてきたマルコに告げる。彼は彼女の『本来』の姿を見せてみろ、と念じていた。彼女が裸のままマルコの前に座るので、慌ててシャツを羽織らせる。彼女は彼の意思を読み取ろうとするかのように手を握り、意識を集中させた。

 程無くアレッタの全身が淡く発光し始めた。髪の艶が増し、青みが強くなる。少し伏せた瞳の青色にも深みが増す。うっすら冷気を纏ったような白い肌。これが彼女の本当の姿。やはり見るのは初めてではない。マルコは確信した。冬島とモビーの舳先で見た姿。しかしそれより前にも恐らく見た。記憶が曖昧なのは何故なのか。ぐるぐる考えながらも彼女の姿に見惚れてしまう。

「この姿の方が楽かい?」
「……子供の姿に比べたら、さっきとあまり変わらない……」
「……子供の姿はキツいのかよい?」
「慣れれば大丈夫だけど、物理的に大きさが違うと不便というか……」
「こっちのがエネルギーが放出されまくってるように見えるけどな」
「それは……たぶん大丈夫。供給過多な感じだし……ただ、貴方以外の人には注ぎ込めない気がする……」
 ちょっと悲しそうに首を振ったアレッタ。役に立たなくてごめんなさい、と目を伏せた。

 別に謝る必要はねぇだろうよい、と彼女に握られたままの手で細い指を握り返し、そっと自分の胸元に引き寄せる。反対側の腕を彼女の腰に回すと、そのままベッドに仰向けに寝転がる。引き寄せられてマルコの胸の上に抱き上げられたアレッタは、いつの間にか発光を止め、先ほどまでと変わらない姿に戻っていた。

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