青氷姫


□潜入!
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 モニカの顔の傷はそれほど酷くはなかったが、マルコの命令で訓練や実戦には数日間参加しないことになった。やはり以前とは違う……モニカはマルコに気遣われたことで、嬉しいのと情けないのと複雑な気持ちが絡み合い、アレッタに礼を言えないまま数日を過ごしてしまっていた。

 モニカの部屋は通称「女子部屋」の中にある。ここには個別の部屋の前室として共有のスペースがあって、鏡台や化粧台などが並べられ、皆で使えるようになっている。モビーに乗る女の数は男に比べて圧倒的に少ないことから、男女間のトラブルを回避するためか、彼女たちの居住スペースは隊を越えて女だけで数ヵ所にまとめられていた。だが、同じ部屋で今回のような女同士のトラブルが起きた場合は、逃げ場がなくてあまり宜しくない。そんな時に世話になるのが通称「ナース部屋」だ。ナースたちは女子部屋と同じような空間を別に持っていた。白ひげのためにモビーに乗り込んでいる彼女たち。いつでも彼の元に駆けつけられるように、船長室の近くで寝起きしている。

「それにしても、ひどい怪我じゃなくて良かったわね」
 ナースのカレンがモニカの傷に薬を塗りながら言った。
「クールビューティを狙ったんだろうけど……海に落とすのが目的だったのかしら?」
「だとしたらちょっとやりすぎじゃない?能力者だったら意識を失って落ちたら沈んで助からなかったかもしれないのよ!」
 横で肌の手入れをしていたリタが少し声を荒らげる。
「実際、海王類に助けられたらしいけど、溺れたみたいね。やっぱり彼女、能力者なのかも」
 床の敷物に座って雑誌を眺めていたハンナが顔を上げてリタに応じる。

 モニカは考える。悪魔の実の能力者が自らの危険を省みず海に飛び込もうとするだろうか?しかし実際、アレッタは何の躊躇いもなく海に飛び込んだらしい。では能力者ではないのか。でも鼻の下を伸ばした男どもに(あくまでも推測だが)まさかのしゃっくり攻撃を繰り出した。助けてもらったのに悪いが、少し釈然としない。何者なんだろう?アレッタって。


**********


 モビーが通過する航路から近い島に、赤髪海賊団が停泊中だとの情報が入ってきた。下手するとニアミスするかもしれず、その際の小競合いを見越して海軍も目を光らせている可能性がある。そのため、先方の動きを少し調べる必要が出てきた。
 斥候として、空からはマルコが周辺を警戒し、それ以外に小船で数名が島に上陸することになった。

 小船に乗り込むメンバーは、次の遠征の順番で3番隊と4番隊から選ぶことになった。ジョズとサッチが自隊から4人ずつ見繕って、総勢8人。先ずマルコが飛び立った。続けて小船を出す段になって、突如伝令役のナンシーが自分も乗り込むと言い出した。しかもアレッタを連れていくと言う。

「はぁ?!何を勝手なこと言ってんだ!」
 サッチが目を剥く。
「極秘任務をマルコ隊長から任されてるんですー!」
「そんなの聞いてねぇよ!」
「ついさっき言われたばかりですもん!」
「アレッタは何か聞いてるのか?」
 重々しくジョズが尋ねる。
「知りませんけど……」
「マルコ隊長からは、アレッタにもあたしから話しておくようにって!」
 だってあたしマルコ隊長から信頼されてますし!などと言って可愛らしく小首を傾げて見せるナンシー。納得できないサッチは、ダメなもんは駄目だと声を荒らげている。

 アレッタは二人のやり取りを聞きながら静かに佇んでいたが、ピュイ!と一度だけ小さく短く口笛を吹いた。すると遥か上空から1羽の海鳥が舞い降りてきて、彼女の傍の船縁に止まった。ナンシーがサッチと言い争っているのを横目に見ながら、アレッタは自分の髪を1本抜いて、クルクルと輪にすると海鳥の頭にそれを乗せた。髪は忽ち小さな青い小鳥の姿に変わり、海鳥と共に空に飛び立っていった。

 一部始終を目の当たりにしたジョズが、何かを言いたげにアレッタを見た。アレッタはナンシーに聞こえないほどの小さな落ち着いた声で、いま知らせを出したから彼女の思惑に乗ってみます、とジョズに告げた。
 それを聞いたジョズは何も言わずに頷くと、サッチの元へ歩み寄り、肩に手を置くと、好きにさせてやれ、とだけ言った。サッチは更に激昂しそうになったが、ふとアレッタの微笑みに気付き、少し冷静になってジョズの顔を見て何かを察したらしく、分かったよ、と肩を竦めた。

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