青氷姫


□寓話的な伝承或いは……
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「親父、邪魔するよい」

「なんだ、変わった組み合わせじゃねえか」
 モビー・ディック号の主、白ひげは、ぞろぞろと部屋に入ってきた面子を一瞥して、何かを察したようだった。

「お、太陽浴びて目ェ覚めたのか!マルコに礼を言っとけよ、珍しく甲斐甲斐しく世話してたみてえだからなァ!グララララララ!」
 アレンを見た白ひげが愉快そうに笑った。

「礼とかそんなのは要らねぇんだよい。それよりも、この件について親父は何をどこまで把握してんだい?」

「『この件』てなぁ、どの件だ?」マルコの問いに、面白そうに問い返す白ひげ。ホワイティ・ベイからアレグロ兄弟を預かったのは白ひげだ。何らかの事情を聞かされているに違いなかった。

「このガキが『ここ数年間まるで成長していなかったこと』が1つめ、んで、2つめが『何故それに俺たちが全く気づかなかったか』だ」
 試されていると感じたマルコは、慎重に言葉を選びながら白ひげの問いに答える。敢えて冬島での不思議な出来事は伏せておく。

 マルコの返事に満足そうな笑みを浮かべた白ひげは、徐にグローリーに向かって
「そろそろ期限を切らしてもらう」
と宣言した。

「お前ぇらがこの船に乗って、そろそろ5年近くになるんじゃねぇか。もう充分猶予はやったろう」

 核心に迫っているらしいことは判っても、何を話しているのか解らないマルコやサッチは、白ひげの言葉に黙って耳を傾けている。話を理解しているらしいグローリーは、納得できない様子で、すがるように言い募った。

「まだ弟の気持ちの準備が整っていないのです!私と一緒に船を下りる決心をするまで、どうか、もうしばらく……」
 言い終わらないうちに、白ひげがピクリと片方の眉を跳ね上げた。

「……準備ィ??決心、だとォ……?」
 聞き捨てならねぇとばかりに眼光鋭く睨め付ける。

「……お前ぇ、とんでもねぇ心得ちがいで、この5年を無駄にしてきやがったのか!!」

 白ひげの怒鳴り声がグローリーを射貫いた。

「お前ェが弟の願いを叶えてやりてぇっつうからここに住まわせてやってたんだろう!弟を守れる力を手に入れたいっつってたのは嘘か!!」

「で、ですから、弟の願いは十分に叶えてきました!船に乗りたいと言ってたから、何年間も船での生活に付き合ったんです!」

「嫌なら別にお前ェが付き合う必要なんてねぇだろうが!」

「そ、そんなことありません!弟には私が必要なんです!私という『兄弟』が!」

「それを言うならここにゃあ1000人を超える兄弟がいるんだ!くだらねぇ言い訳してんじゃねえ!」

「で、ですが、私の願いも叶えてもらわないと不公平じゃないですか!私は氷国の正統な血族ですよ?!盟約に従って奉仕されるべき存在なんだ!だから今までずっと待ってやってたんだ!」

「本音を出しやがったな!お前ェが勝手に弟に付きまとっていたにもかかわらず、弟の力をも使う気でいやがったとはなぁ!いい加減にしやがれェ!!!」

 地響きにも似た大音量に、グローリーは腰を抜かして気絶した。

「親父……俺たちにも解るように説明してくれよい!」
 痺れを切らしたマルコが声を掛けた。その脇でサッチもそうだそうだと何度も大きく頷く。仕方がねぇ、とビスタの後ろで微動だにしないアレンの青い顔を見やった白ひげは、サッチに隊長連中を集めるように指示を出した。

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