幻水U 長編 夢置き場
□光の姫君 第十章
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たどり着いた場所に
記憶を重ねて……
後、少し……
〜 光の姫君 36 〜
「さて……と、もうすぐ着きますね。」
「ソルファレナに、よね?」
ウォルフの言葉に、少し緊張した声で返す。
「いえ、今から向かうのはソルファレナじゃないんです。……王都に行くのはまだ早い。」
やや表情を曇らせた後、馬を止める。
「ひとまず、王家の別荘に向かいます。……ティアラ様が10年、過ごされていた場所です。」
「……そう。わかったわ。」
言葉少なに、また、馬を走らせ始める。
(また、……ね。)
揺られる馬の上で、小さく息をつく。
いつも、そうなのだ。
(核心を突かれる事を、避けている……。)
自分がなぜ狙われているのか。
なぜファレナ女王国から行方不明になったのか
今、なぜファレナに戻るのか……
目的地がソルファレナだということは、言外に匂わせているが、それ以上の事を、ウォルフは言わない。
(記憶が戻れば……)
きっと。
全てが解る。
そう信じて、只管、ウォルフの背中を追いかけた。
しばらく馬を走らせ、森を抜けると美しい湖が見えて来た。
その奥には、草に覆われた屋敷らしきものが見える。
「ここ……」
「えぇ。あそこに見えているのが王家の別荘の一つで、ここからはーーー」
「小舟を使って渡る。さらに、別荘の奥は断崖絶壁で敵の侵入が難しい……違う?」
「…あってますよ!もしかして記憶が?」
囁くように訪ねたウォルフに対し、息をついてから首を傾げる。
「わからないわ。でも、今まで以上に懐かしい気持ちがあるって事は確かよ。」
話をしながら、馬を手近な木の幹につなぎ始める。
「……ティアラ様、やっぱり確実に戻り出してますよ。記憶…」
「??なんでそーー」
「あなたが馬をつないでいたのは、いつも決まってその木でしたから……」
自分が馬の綱を括った木を指さして、ウォルフは優しく微笑んだ。
「…………」
ティアラは、意識せずその木を選んだが、それが体に潜在的にあるものならば。
「あと少し、少しなのね……」
そう呟いて、ティアラは、湖と屋敷の景色を再び目に映した……