思い出の欠片


□\、記憶
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オズ「…!なんだよ…これっ…!?」

俺が庭から移動した場所は、
何処かの屋敷の中だった。
でもそれは、死体だらけの。
前後左右何処を見ても
死体だらけで、
俺は噎せ返る血の臭いに鼻を塞ぐ。

男『やはり此処に辿り着くか…。』

不意に、頭の中に声が聞こえた。
それは先程まで一緒に居た
あの男の声だった。

男『良かった。私の声が届いているね?オズ。君が今居るのはサブリエ。君達にとってはかつての首都であり、そしてバスカヴィルの手によってアヴィスへと堕とされた都市だ。』

オズ「まさかそれって…100年前のサブリエの悲劇…!?なんで…こんな所に…」

男『忘れたのかい?この空間はアリスの記憶によって作られたものだよ?所々歪んでいたり、その場に居た他の者の想いを飲み込んでいる場合もあるけれど、確かに彼女は此処に居た。100年前のあの日、悲劇の中心となったこの城に。』

《此処にあるのはアリス達の、最も消し去りたかった記憶…》

俺はチェシャ猫の言葉を思い出した。
まさか、これがそうだって言うのか?
こんなものを、アリスは見ていたのか?
酷い光景に吐き気が止まらない。
俺は走り出した。
早く、早くアリスを見つけようと。
何処まで行っても死体だらけ。
血の臭いが気持ち悪い。

少し走っただけでどっと疲れ、
俺は立ち止まった。
ふと前方を見ると、
泣いている子供の後ろ姿を見つけた。
ひっくひっくと静かな悲劇の中
彼の嗚咽が響く。

?「…僕は、わ…るくな…い…。これは…僕のせいなんかじゃ…」

オズ「…!?」

振り返った子供の瞳には、
金と赤紫のオッドアイがあった。
俺の頭には一番に、ある人物が出てきた。
まさか、そんな筈があるわけない。
子供は、
ヴィンセント=ナイトレイに
そっくりだった。

子供「ぼ、僕は悪くない…。僕はただ…ただギルのために…!」

「ギル」
彼の口からはっきりとそう告げられた。
まさか本当に、ヴィンセントなのか?
子供はドサッと倒れると、
目の前に広がる血の海を見て
何故か笑い出した。

子供「…は、はは…そう。そうだよ。僕はなんにも悪くない。だって、これは全部お人形さんなんだもの。可哀想に。誰が君達にこんな事をしたの?僕は知ってるよ。"あいつ"だ…、あいつが全部悪いんだ!!そらもじめんもぼくも!みんなみんなまっかだ!!これもぜんぶ…あいつのせいなんだぁぁ!」

オズ「!…やめろ!!」

子供は近くに倒れていた死体に
持っていた鋏で突き刺そうとした。
思わず止めようと前に出るが、
子供の姿は消え、
俺はただ血の海に倒れ込んだ。
袖には真っ赤な鮮血がこびり付き、
先程より間近で見た死体に
より吐き気が増す。

もし、あれが本当に
ヴィンセントだとしたら?
そしたら、彼の兄であるギルも、
同じ様に100年前の人間だっていうのか?

消えた子供はまた近くに現れ、
無邪気に笑いながら別方向へと走り出す。
俺はそれを追い掛けようとしたが、
誰かに肩を掴まれ出来なかった。
振り返ると、
また其処には見知った人物が居た。

オズ「…ベアトリクス…?」

そう。俺の肩を掴み、
子供の元へと行かせなかったのは
ベアトリクスだった。
だがいつもの彼女とは違い、
彼女の左目にはいつもしてある眼帯が無く
代わりに美しい真紅色の瞳があった。
よく見てみれば、
青色の筈の右目も真紅色に変わり、
服も貴婦人のドレスの様なものを着ていた。
見た目はそっくりだが、
本当にベアトリクスなのだろうか。

ベアトリクス『…私は、アリスの記憶に居るベアトリクスの断片であり、そのベアトリクスの思い出の一部にすぎないわ。だから、貴方を守る事は出来ないけれど、導く事は出来る。』

「ついてきて。」
まるでそう言っている様に
彼女はまた振り返り
俺に背中を向けて歩き出した。
走って行った子供が気になるが、
今の俺には、
目の前に居るベアトリクスを
信じる他ないと思い、
大人しく彼女の後をついて行った。
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