思い出の欠片
□Z、独り
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傍に居てくれれば…
それで良かったんです。
それだけで私は、
此処に居ると言う
実感が出来たんです。
それだけで私は、私達は、
「幸せ」だと、
思う事が出来た筈なんです。
いつだったか、もう随分昔の記憶。
ある日ジャックが
アリスに問うていた。
それは彼がアリスに
出会って間もない頃、
彼はアリスが
閉じ込められている塔へと
難無く入って来れる
人物の一人だった。
それが彼がグレンの友達だったから。
アリスよりも前に此処へ居た私は、
彼の事をよく知っていた。
それをまた知っているアリスに
何度も彼の事を聞かれたが、
一切答えなかったのを覚えている。
ジャック「バスカヴィルの敷地にこんな塔があるなんてねー。ねぇアリス、グレンが君をこんな所に閉じ込めているのかい?」
アリス「…わからないわ。でも、屹度みんな、私の事が嫌いなのよ。」
ジャックの問いに、
彼女は黒い飼い猫を
抱き締めながら悲しそうに答えた。
アリス「でもね、ベアトリクスが遊びに来てくれるから寂しくないわ!それに、最近は貴方も来てくれて嬉しいわ、ジャック。」
けれど、そんな表情を
すぐに隠して、
いつもの笑みを顔に浮かべる。
ジャック「…よし!アリス、今度是非私の家に遊びにおいで。」
アリス「えっ?むっ…無理よ。そんなのグレンが許してくれる筈ないわ…。」
突然のジャックの誘いに
アリスは戸惑っていた。
本当は遊びに行きたい筈なのに、
この大きな塔に縛られているから
自分でも駄目だと
わかっているのだろう。
だが彼は、そんなアリスを暗闇から引っ張った。
ジャック「大丈夫、大丈夫!バレなきゃ良いんだよ。」
アリスは彼の
明るい性格に惹かれていた。
私も"彼と会話は出来なくても"
彼の事を慕っていた。
《何も無いなんて嘘じゃない。》
《貴方にはただ生きる覚悟が足りないだけ。》
けれど、
私はレイシーと出会った頃の
彼を知っていたから。
必然と、線引きをしてしまった。
笑顔を貼り付ける
空っぽな男である彼を、
もしかしたら嫌っていたのかもしれない。
でも、今でこそ言える事だが、
私も彼と変わらない。
空っぽな女であった事に気付いた。