思い出の欠片
□[、大切な友達
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ベアトリクス「興味深いわね。貴方がそんなにも執着する"獲物"なんて…。」
ブレイク「…そうですかネェー?」
茶会を終えた後に、
私達は予定通り街へと出掛けた。
私は出掛けた理由さえも
知らされていなかったので
ただザクスについて行くだけだったが、
途中から異変に気付いた。
何処へ行くのでもなく、
彼は街のお店を回りに回って
飴玉やお菓子を沢山買っていた。
ベアトリクス「…何を探しているの、ザクス。」
ブレイク「…ちょーっと生意気な兎さんですヨ♪」
言いながら、
彼は私の口の中に飴玉を一つ入れた。
甘い味が口内に広がり、
少しは日頃の疲れが
癒されると言うものだ。
ベアトリクス「…兎?…ビーラビットの事?」
ブレイク「君も頑なにその呼び名ですネェ。彼女にも毎回言われている様に呼んであげれば良いのに。"アリス"って。」
その言葉に私は顔を顰める。
そんな私を見てザクスは
クスッと笑っていた。
それが少し頭に来たので
私はいつも彼がする様に
飴玉を口の中で噛み砕いた。
ベアトリクス「…確かに黒うさぎも"アリス"である事に変わりはないのだけれど、私にとってはあの子が本来の"アリス"に感じる。今の黒うさぎである彼女をアリスと認識するのは、今の時点では難しいわね。」
ブレイク「頑固者ですネェ。」
ベアトリクス「…だから、私は彼女をビーラビットと呼ぶの。彼女達が別人である事を忘れない様に。」
そして歩いていると、
ザクスは一つの建物の裏路地に入り、
何処から取り出したのか、
壁と同じ色の紙を持って立ち始めた。
ベアトリクス「…え、何してるの。」
ブレイク「ベアトリクスも隠れて下さーい。そろそろ来ますから。」
ベアトリクス「…?」
すると、遠くの方から足音が聞こえてきた。
私は反射的にタイムで体の認識を薄くし、
ザクスの横の壁に立つ。
暫く待っていると、ビーラビットが
紙袋に沢山入った林檎を
両手に抱えながら走ってきた。
そして壁に手を付き、
何だか重たい表情をしている。
((チリーンッ
アリス「っ!…誰だっ…おいコラ。」
ブレイク「あ、バレちゃいましたー?」
何処からか鈴の音が聞こえた。
その音に反応する様に
ビーラビットがこちらを向くと、
当然ザクスは直ぐにバレた。
ブレイク「いやぁ〜、この忍術を見破るとは…流石ですネ、アリス君。元気そうでなによりデスヨ。」
アリス「出て来なくていい。壁と一緒に粉砕してやる…!?…お前も居たのか眼帯。」
私がタイムの力を解き、
咳を一つ零しながら
壁から出て来たのに
彼女は酷く驚いていた。
だが私はそれよりも
他に気になる事があった。
先程からあの鈴の音が
耳から鳴り止まないのだ。
屹度彼女もザクスも聞こえているんだろう。
辺りを警戒している。
ブレイク「…でもね、もう少し周りに気を配った方が良かったようだ。"奴"はずっと君の事を尾けていたヨ…?」
アリス「何…!?」
突然、ザクスがビーラビットを
抱き締めた。
「こんな時に何をしているのか」と
私が呆れていると、
彼等の後ろに黒い何かが見えた。
その何かに、
私は目を奪われた。
ブレイク「私から離れてはいけないヨ、アリス君。でないと、躾のなってない猫に道に迷わされてしまうからね…!」
アリス「…お前は…!」
黒猫だった。
口先が尖った大きな黒猫。
私は"彼"を知っている。
いいや、私達は知っている。
私の大事な…。
ブレイク「…ほらベアトリクス、君も早くこちらに…」
ザクスの呼ぶ声がするけれど、
私は目の前の彼に釘付けだった。
ただ目を見開いて突っ立っている事しか
出来ない。
そんな私を不思議に思ったのか、
ザクスはもう一度私の名前を呼ぼうとした。
けれどそれより早く、
黒猫の手が私に伸びて来た。
ベアトリクス「…チェシャッ…!」