短編小説

□許容
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秋元・中田・若月・桜井の仲良し四人組は、ある日、小旅行に出かける。自然と2人組(若月・桜井)(秋元・中田)が出来上がる中で、秋元は若月と桜井のラブラブっぷりに辟易しながらも羨ましく思う。そこで若月と中田が席を外している時に桜井にそのことをポツリと漏らすと、桜井は嬉々として秋元と中田をくっ付ける作戦を考えてくれたのだが‥‥。


※秋元目線




「‥‥」



玲香って‥結構大胆でエロい‥。




今自分の置かれた状況を省みながら、私は玲香のことを結構恨んでいた。



「真夏ー風呂どうする?」




花奈がベッドに寝そべりながら聞いてくる。




「え、あ、花奈先入って来なよ」




「いいの?じゃあ先入っちゃうね」



花奈は面倒臭そうにベッドから身を起こし、シャワールームに入っていった。




「ふぅ‥」



一気にグッタリとした。



近くにあった花奈のベッドに思いっきり飛び込む。




(‥あ、花奈の匂い)




「‥やばいな私」

















玲香が練った計画は、かなりシンプルなものだ。




『じゃあさ、』




玲香は目を輝かせて言う。




『私と若月、お風呂に入った後しばらく外出してるよ。その間に‥‥』




玲香は最後まで言わずニヤニヤと私を見つめる。




つまり私たちを気遣ってわざわざ四人部屋から退出してくれるらしい。




「やだよそんな不純な計画‥もっとマトモなやつないの?」




『えーどこか不純なの?むしろ普通だよ〜。‥それにこの作戦はね、案外成功すると思うよ』




どこから湧いてくるのかわからない自信に満ち溢れた表情で玲香は笑った。




‥大丈夫かなぁ‥





そんなこんなで夜が来て‥、




『私たちちょっと夜景見に行ってくるから』




そう言って玲香と若月が部屋を出て行ってから10分が経った。




きっと玲香たちは後1時間は帰ってこないだろうなぁとか思いながら花奈のベッドに寝そべっていると、




ガチャッ




「あ、ねぇ真夏ー、私のバッグからシャンプー取って」




急にお風呂場のドアが開いたかと思うと、花奈の声が部屋に響いてくる。




「ちょっ、びっくりさせないでよ〜‥」




あまりにもびっくりして心臓が止まるかと思った。




‥それより、




「‥ねぇ花奈、お願いだから前を隠してくれる‥?」




「あ、ごめんごめん」



びっくりした。



パッと花奈のほうに目を向けたらあのナイスバディがバンッと目の前にあるのだもの。



「これ?」



花奈のバッグを漁り目的のものを見つけた。



「ありがとー」



申し訳程度に小さなタオルで体を隠す花奈を極力見ないように、私は探し当てたものを渡そうとした。




「‥あ、真夏そこ危な‥」




全てを花奈が言い終える前に、私はツルッとギャグのように花奈の目前で滑った。




「っ痛っぁい‥」



もちろん受け身なんて取れないから思いっきりお尻と背中を強打。




床で悶える私に花奈が急いで駆け寄る。




「ちょっ、だから言ったのにーそこ濡れてるから危ないって」




「う、うん、ごめんごめん。‥‥⁉」



「あ、ごめん、裸だった」




花奈は何も着ないまま私を助け起こしてくれていた。




タオルは床に無造作に投げ捨ててある。




「私のナイスバディに恐れ入ったか真夏ー」




「‥うん」




「‥ちょ、冗談だよ〜‥」



真面目に返事したら急に照れる花奈。



さっきまで平然と私に裸体を晒していたのに、今や慌ててタオルでその綺麗な体を包もうとしている。



「えーそのままで良いのに〜」



「‥あの〜‥酔ってますか真夏さん?」



そう言われると確かに頭がポーッとして上手く理性が働いていない気もする‥。




「酔ってるのかなぁ私?うーん‥でもこうやって花奈の体見てるとね、本当に綺麗だなぁって、触りたいなって思うんだよね」



「‥この酔っ払い変態オヤジ」




花奈に暴言を吐かれた。




20歳少し過ぎの女性を捕まえてオヤジとはちょっと酷い。




でも花奈が私に背を向け明らかに恥ずかしがっているので、まぁここは許してあげよう。




「ってか真夏いつまでいるの。ほら、ドア閉めるから」




花奈は入念にタオル(今度は大きめの)を体に巻きつけ、私を追い払おうとする。



もうちょっと花奈をいじめたいと思いながらも、これ以上やると花奈が湯冷めしてしまうのでやめておく。




「まったくもう‥真夏ほんと今日変だよ。妙な食べ物とか食べたんじゃない?」




呆れ顔で花奈がドアを閉めた。




「‥‥そう言えば食べたかも」




『何をー?』




ドア越しで会話する。




「あのね、玲香がさっき景気づけとか言ってまっずい砂糖菓子くれた」




『それじゃん‥』



花奈の脱力した声がドア越しにはっきり伝わってくる。




「なんだったんだろう、あれ」




『知らない方がいいかもね』




「‥そうだね」




ここは知らぬが仏。答えが怖いなら聞かなければ良い。







「‥‥どっちにしろ本音だし」




『?何か言った?』




「ううん、独り言」




花奈は知らなくて良い。




私が結構本気で花奈を好きなこと。




結構本気で花奈のその綺麗な体に触りたいと思ってること。




結構本気で悲しいぐらい恋してること。




私は滑稽な道化師だから、本当はこう思っていても口にも態度にも出してはいけない。



玲香に相談したことだってきっと彼女は本気に思ってはいないだろう。



でもそれで良い。



そう捉えられるのに慣れてしまって、私はもうどれが私だか自分でも分からなくなってしまった。




『‥‥真夏?急に黙っちゃってどうしたの?』



花奈が不意に声を上げた。



「え、ううん。なんでもない」



『なんでもないとか言って真夏の場合何でもあるんだもんね‥』




ドキッとした。



「‥そんなことないよ〜」




『私が真夏の秘め事知らないとでも?』



花奈の言い方はまるで‥私が何か秘め事があるかのようだった。




「何言って‥」




『‥‥何でもなーい』




「おい‥」




『まぁ私も真夏に隠し事あるから同じだけどね』




「え?何それ」



『真夏が真夏の秘め事言ってくれたら教えてあげてもいいよ』




花奈は完全に楽しんでいる様子だった。




いつもと違う花奈に調子が狂う。




「‥花奈が言わなきゃ私も言わないもん」




花奈はしばらく沈黙の後、急に大きな溜息を吐いた。




『真夏の意地っ張りで天邪鬼で不器用なとこ結構好きだけどさ、‥私も含めて、素直にならないと損することってきっと一杯あるよ』




「‥?」




『現に今だってさ、おちゃらけてふざけてて、真夏の本当の気持ちはどこにあるの?』




「‥‥」




真剣な花奈の声色に何故かとても嬉しくなった。




花奈は私のために私を怒ってくれている。




やっぱり花奈には敵わないと再確認して、私は囁くぐらいの小さな声で言う。




「‥‥知ってたんだね」




『‥うん』




「‥そっか」



二人の間に沈黙が訪れた。




意を決したように、花奈が口を開いた。




『私さ、玲香にある相談をしたんだ』



‥ん?




「どんな?」




『‥‥真夏ともっと仲良くなる方法』




「え?私たち今でもこんな仲良いのに?」




『違う!だから〜‥その、‥‥友達としてじゃなくて‥』




花奈は恥ずかしかったのか、最後まで言い終えず言葉を濁した。




私のほうは恥ずかしいどころではない。




「‥え、でも、それって‥」




ずっと片思いだと思っていた。




この思いを伝えて仲がギクシャクするぐらいなら、意地でも伝えるものかと思っていた。




うれしいはずなのに動揺の方が大きくて
いまいち花奈の言葉を飲み込めない。




『謝んなきゃな、ってずっと思ってた。真夏の気持ち知ってて、でもなんか自分に自信持てなくて』




でもいま伝えてられてよかった、と花奈は小さく呟いた。




「‥花奈、」




黙ってしまった花奈に、私が掛ける言葉は一つしかなかった。



「あのさ、今からお風呂入るから出ないでね」




『‥へ?ちょっ待っ‥真夏⁉』




花奈が焦っている声を聞きながら、私は素早く服を脱ぐとお風呂場のドアを開けた。




案の定、花奈は急いでそこらへんに置いてあったタオルで体を隠し、顔を真っ赤にして出迎えてくれた。




「真夏それズルくない‥?」




私はもちろんかたーくバスタオルを体に巻いてきたので大丈夫。




「もぅ‥後ろ向いててね真夏」




体を洗っている最中だったらしく、花奈は無理やり私の体をぐるっと回転させ湯船の淵に座らせた。




「何でー?花奈さっきまで普通に裸体晒してたじゃん」




「それは‥お互い気持ち伝えてなかったし‥」




「‥気持ち伝えたら何か変わったの?」




「‥‥真夏は?」




質問を質問で返された。




「‥あんまり」




素直に答える。だって、



「気持ち伝えなくても伝えても、花奈に対する想いはずっと変わんないもん。花奈のうなじがとても綺麗で何回見ても見飽きないことも、‥花奈の自慢のナイスバディにちょっと触ってみたいって思うのも」




思えばずっと前からそう思っていた。




ただ自分のそんな思いを口にしたところでどうしようもないというのは知っていたから、私はわざと気がつかないフリをしていた。




ふと花奈のほうを振り返ると、花奈はいままでで最高の赤色で顔を染めていた。




「ちょっ‥花奈照れすぎだよ」




「いや、だって真夏‥‥それこの場で言っちゃったら誘ってるのと同じだよ‥」




「‥あ、」




言われてみれば確かに誘い文句に十分なり得る言葉だった。




「‥‥」




「‥‥」





今まででもっとも気まずい沈黙。




お互い何か言わなきゃ、この場の空気に流されてしまいそうな危ないところで、









ガチャ





『ただいまー』




『ちょっ玲香もっと静かに入りなって!』




一気に外がガヤガヤとしてきた。




意外と早い二人の帰宅に不意をつかれた気分。




まぁでもちょっと助かったのは事実だったから許してあげよう。




「‥洗おっか」




「そだね」




私たちは顔を見合わせて笑った。




FIN

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