短編小説

□夢か現か
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※橋本目線




トントントンと、小気味よい音で目が覚めた。




「あ、珍しい、もう起きたの?おはようななみん」




エプロン姿のまいやんが最高の笑顔と共に振り向いた。
















「‥え、なんでいるの?」










「もしかして覚えてないの?昨日のこと」





「‥‥‥」




覚えてるって言っても覚えてないって言っても終わってる気がした。





「まぁあれだけ呑んでたら記憶無いかもね。‥はい、シジミのお味噌汁。少し二日酔い気味でしょ」




「‥‥‥‥‥あ、うん」




確かに少し頭がズキズキする。ズキズキするけど、








まいやん‥私なに一つ事情が飲み込めてないんだけど‥。




「私も昨日は流石にハメ外しすぎたなぁ。まぁでも今日は休みだから二人でゆっくりしてよ❤」





食べないの?とまいやんが可愛くて小首を傾げる。





「‥‥‥あ、うん。いただこうかな‥」





恐る恐る床に足を着ける。




あ、ちゃんと着いた。生きてる。





「いただきます」




まいやんと向かい合って手を合わせ、さっそくお味噌汁に手を伸ばす。





「‥美味しい」




意識せずにその四文字が出てきた。




「ほんとっ?うれし〜!」





テンションアゲアゲなまいやん。




なんだかすごく恋人の気分を味わう私。





「まいやんはやっぱり料理上手だね」




なんだかもうアレコレ考えるのを止めてまいやんとのこの幸せな時間を楽しもう。





「まぁ振る舞う人いないから意味無いんだけどね」




「いま私に振舞ってくれてんじゃん」




「今‥だけだし」




そう言って上目遣いで私を見つめるまいやん。




あざとい。けど‥






‥‥釣られた。





「‥‥じゃあさ、」




まいやんが食べてる手を止めた。




「私に‥これから作ってよ、毎日」




「‥‥良いの?」




まいやんがパッと表情を明るくさせた。





「もちろん」




まいやんが急に身を乗り出した。




私が反応できないでいるうちに、まいやんはチュッと私のほっぺにキスをした。





「へへ、今日から私たち恋人同士ね♪」




まいやんが照れながら微笑んだ。そして‥


























‥目が覚めた。





ずいぶんおかしな夢を見たものだ。




「ふぁ〜」




欠伸をしてうーんと背伸びをする。





「‥ん、もー朝?」





「うん、そろそろ起きなきゃ収録に遅れるよ」





「眠い〜」




「私も眠‥‥‥‥い?」




バッと隣を見る。





「‥まいやん‥‥⁉」





夢じゃなかったのか‥?





「なんでいるの⁉」




狼狽える私をまいやんは不思議そうに見て、爆弾発言をしてくれた。





「ななみんが誘ってきたからでしょ」





「‥‥」





‥‥せめてこれだけは夢の中だけの話にしたかった‥‥。





「ななみんって意外と激しいんだね」




腰を押さえてよっこらしょと立ち上がったまいやん。




‥せめて下着ぐらいは着けてくれないと目に毒なんだけど‥。




「今日が休みだったらシジミのお味噌汁ぐらいは作ってあげたんだけど。そんな時間ないか」




その時、ちょうど私の携帯がピロンッと鳴った。




画面を見ると生駒ちゃんからだった。





『今日の収録スタッフさんの都合で明日になったよー!ってなわけで今日はお休み!やったぜー』





「じゃあシジミのお味噌汁作れるね」




まいやんが私の背後から画面を覗き込んで言った。





なるほど、あの夢は予知夢だったのか。




「まいやん」




私は服を着てキッチンへ向かうまいやんの背に声をかけた。




「んー?」




そこら辺に閉まってあったエプロンを取り出し着用するまいやん。




もちろん夢の中と同じエプロン。





私は意を決して言ってみた。





「まいやんの手料理、誰か振る舞う人いるの?」





まいやんはトントントンとネギを切りながら言った。





「今ななみんに振る舞うぐらいだよ。相手募集中なの」





募集中、ね。





「じゃあさ、」




「うん」





「私がエントリーしたら、まいやん手料理作ってくれる?今だけじゃなくて」





「‥今だけじゃないって‥明日も明後日も?」





「ずっと」





「‥‥」




包丁の音が消えた。





「‥ななみんが良いなら、私はいつでも作ってあげるよ」




まいやんの顔は見えなかったけれど、横を少し向いた時、耳が赤くなっているのがここからでも分かった。




「ありがと」




やっぱまいやんはかわいい。





「ちなみに私も募集してるよ」





「?なにを?」






「恋人」





「‥‥」




何も反応が返ってこなかったけれど、危うく包丁を落としかけたまいやん。





料理中は話しかけるの止めよう。






「はい、完成」




まいやんがお椀を二つ向かい合わせでテーブルに置いた。




食欲をそそる良い匂いが漂ってくる。





いただきます‥の前に、





「まいやん、どう?立候補する気ない?」




私はしつこく先ほどの返事を催促する。





夢のせいか分からないけど、なんとなく自信があった。




そして、やっぱり予想は的中した。




予知夢すごいな。






「‥‥まぁ、なってあげても良いけど」





まいやんはツンの後のデレのように言った。





真っ赤になったほっぺの破壊力が半端ない。





「ツンデレまいやん可愛い」




「ツンデレじゃないし」





どこが?ってつっ込もうと思ったけどこれ以上いじめるのも可哀想だったのでやめておく。





「まいやんみたいな彼女がいたら言うこと無しだよ」





まいやんの手料理を食べながら私は心の底からそう思った。





「‥ふーん、何も言うことないんだ」





「‥?」





「‥好き、とかさ」






「‥‥‥」





急なデレは心臓に良くない。










最後の最後で最高のデレをくれるまいやんが好きです。






Fin

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