短編小説
□ひな犬
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※第三者(齋藤飛鳥)
私、齋藤飛鳥は今、暇を持て余していた。
なので楽屋の中をぐるっと見て面白そうなものはないかと探していたら、ちょうど見ていて飽きない二人組が近くにいたことに気づいた。
「ねぇみさせんぱーい」
日奈子がみさみさの膝の上に座って甘えている。
「んー?」
スマホを弄りながら気の無い返事をするみさみさ。
「みさせんぱーいみさせんぱーい」
日奈子はどうやらただただみさみさの名前を呼んでるみたい。
「何よもぉ‥」
そのうちみさみさが面倒くさそうにスマホの画面から視線を上げた。
「ほら、これで良い?」
そう言ってみさみさはスマホを脇に置くと、‥‥何故か日奈子の全身を犬にでもやるようにワシャワシャし始めた。
「ひゃー‥」
気持ちよさそうに目を瞑る日奈子。
一瞬ピロンッと尻尾が見えた気がしたのはきっと私の目の錯覚。
「はいおしまい」
名残惜しそうにみさみさの手を見つめる日奈子。
ちょうどその時、まいまい犬が近くを通りかかった。
何故か犬の被り物をしていたからまいまい「犬」ということで。
「あっ、まいまいー」
みさみさのテンションが急に上がる。
「んーどうしたのみさみさ?」
まいまい犬はトコトコとみさみさの元へ駆ける。
「あー今日も可愛いねぇまいまい犬は」
みさみさは日奈子にやったように、いや、それよりも激しくまいまい犬をワシャワシャする。
「ひゃー‥みさみさ激しいよ〜」
まいまいは困ったように、だけどちょっと気持ちよさそうに顔を緩めている。
‥あ、日奈子。
日奈子はそんな二人を見て、ムーっと膨れている。
‥可愛い。
「じゃあみさみさまたね」
まいやんはそんな日奈子の様子に目ざとく気づき、微笑むと、そっとみさみさから離れた。
名残惜しそうにまいまい犬の後ろ姿を見つめるみさみさ。
「‥みさせんぱい」
日奈子が精一杯拗ねてますよ、という声でみさみさの名を呼んだ。
「ん?なあに?」
あ、みさみさ笑った。
これは‥日奈子のイヂヤケムシに気づいて愉しんでる。
「‥なんで‥その‥なんでまいまいさんには‥‥‥あれなんですか」
日奈子、恥ずかしいからってモゴモゴ言ってても全く伝わらないよ。‥伝わってるけど。
「えー?なんのこと?」
案の定、みさみさは意地悪く聞いてくる。
この時点で私は、みさみさの目的が日奈子にヤキモチを妬かせることだとわかったけど、鈍い日奈子は全く気付かない。
「‥‥だからぁ、‥‥‥」
日奈子は言葉で伝えようとして苦戦してる。
まぁ口では最初からみさみさに勝てるとは思えないけど。
「はっきり言わないと伝わらないよ?」
‥怖いなあの人。
日奈子にとって言葉で伝えるって難問なのに‥。
「んー‥‥‥‥っじゃあコードウで伝えます!」
何か唸っていると思ったら、日奈子、唐突に叫んだ。
みさみさも呆気に取られて急に立ち上がった日奈子を見上げた。
「みさせんぱい」
「は、はい」
「ずうっと私だけの飼い主でいてください!」
言葉で言えてんじゃん。
‥じゃなくて、‥‥‥‥‥‥‥なにしでかしてんのヤツは‥。
みさみさも驚きで目を見開いて固まっている。
それもそうか、急に、なんの突拍子もなくキスをされたんだから。
「‥‥やっちゃった」
日奈子が口を押さえ、キョロキョロ周りを見渡す。
いや、みんな見てたからね。
「‥‥み、みさせんぱーい‥?生きてますかー‥?」
全く動かないみさみさの顔の前で、日奈子が手をパタパタする。
みさみさはふっと我に返って‥‥‥ニッコリと笑んだ。
‥怖い。
「‥きぃちゃん」
みさみさの静かな声が楽屋に響く。
みんな視線は違う方を向いているけれど、それ以外の全ての神経を二人に向けている。
「は、はい‥」
声が上ずる日奈子。
そんな日奈子に、みさみさは近くに来るよう手招きする。
恐る恐る近づく日奈子を、みさみさはギュッと抱きしめて、そのまま自分の膝に乗っけた。
そして、
「‥‥、‥てね」
日奈子の耳元で何かを囁く。
内容は聞こえなかったけれど、日奈子の赤くなって動揺している様子からなんとなく察することができた。
今日お家においで、的なことだろう。
みさみさ大人の色気溢れすぎ。
もうちょっと幼いメンバーにはフェロモン抑え気味のほうがいいとおもう。
なんかもう見ていられなくて視線をずらすと、まいまい犬と目があった。
良かったね、という風に優しく微笑むまいまい犬。
まいまいにとって本当に良かったのかな?と思ったけど、その後、まいまいがすぐに駆け寄ったメンバーを見て納得した。
あーぁ、みんなしていちゃいちゃしちゃってさ。
こんなこと普段なら思わないのに、今日は特別誰かとイチャイチャしたい気分。
誰か都合よく来てくれないかな?
「飛鳥〜呼んだ〜?」
「‥‥」
なんでこう‥‥違う人に送っていた電波を横からかっさらってくのかな、この人は。
「‥別に呼んでないし」
えーひどい!なんでそう私には特に毒舌なのよ!と、真夏が騒いでいる。
‥まぁ、でもちょっとは嬉しかった。
なんだかんだ一番最初に私の気持ちに気づいてくれるし。
‥こんなこと口が裂けても言わないけどね。
「‥‥ばーか」
「‥‥今思いっきり暴言吐かなかった?小さな声で言ってたけどまる聞こえだからね!?」
真夏、うるさい。
まぁでもいくら鋭い真夏でも分からないよね。
私のばかが本当は最っ高の親愛の証だってこと。
Fin