短編

□初恋
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結局この胸の痛みの理由は分からずにぼんやりと授業を受け、気が付けば放課後になっていた。



「あ、帰らなきゃ」



生徒会室で資料をまとめているといつの間にか5時を過ぎていた。


荷物をまとめ鍵を閉め昇降口へと向かう。



「トランクス先輩、好きです。

私と付き合ってください……!」



バッドタイミング。


誰かがトランクス先輩に告白している所だった。


チクッ


またチクリと胸が痛む。


私の手は勝手に耳を塞ぎ音を遮断した。


しばらくするとトランクス先輩はいなくなっていて、ああ、付き合ったのかな。なんて思いチクチクと痛む胸を押え付け下駄箱へと足を進めた。



「はあ……」



靴を取りポンと床に置き大きなため息をつく。


今朝からトランクス先輩の事ばかり考えている。


これは何なんだろう。


トランクス先輩はモテるから告白なんて毎日のようにされているんだろう。


そんな事を考えているとまた胸が痛む。


ああ、もしかしてこれって



「恋ってやつ?」



恋。自分の気持ちに気付き、崩れる。


あの人は遠い存在。手の届かない人。


私って相当な馬鹿。よりによって初恋があのトランクス先輩なんて。



「へー、恋かあ。一体誰に?」


「トランクス先輩、知ってるでしょ?」


「うん、よく知ってる。

それ、俺だから。」


「えっ……」



バッと後ろを向くとそこにはトランクス先輩の姿。



「あっ、あ、えっと、これは……」


「ねえ、オレの事好きなの?」


「いや、そのっ……」



心拍数が上がりドクドクと心臓の音が聞こえる。


まずい、まずい。


どうすればいいのか分からず頭の中が真っ白になる。



「答えてくれない?怜さん」


「あ、の……私、その……

トランクス先輩の事、好き、みたいです……

ご、ごめんなさい……

忘れてください」



ポロポロと涙が零れる。


駄目だ。目の前にトランクス先輩がいるのに。


涙を拭おうとした手を握られぎゅっと抱き締められる感覚。



「えっ」



自分を抱きしめているのがトランクス先輩だと気付きパニックになる。


一体、なぜ?



「ごめん、つい嬉しくて」



ゆっくりと私を離し私の目を見つめてくるトランクス先輩。


嬉しくてって、何が……?



「俺も君が好きだよ」


「えっ」



思わず素っ頓狂な声が出る



「ははっ、俺は君に一目惚れってとこかな。

1年程前からね。

ずっとアピールしてたのに君ったら全く見向きしないんだから。」


「え、えっ……」



思いもしなかった出来事に言葉が出ない。



「ははっ、動揺しすぎ。

じゃ、今日から俺達付き合ってるって事で良いんだよね?」



あまりの嬉しさに目を見開きコクコクと頷くしかできない。



「本当に、可愛いなあ……」



ちゅ、と唇に暖かい感触。


それがキスだということに気が付くのはすぐの事で。


ボンッと一気に熱くなる顔。



「ははっ、真っ赤」


「ト、トランクス先輩っ」



何も無かったかのように昇降口を出て行くトランクス先輩を追いかけた。
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