短編
□叶わない想い
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ボクが6歳の頃、前の母さんと父さんが別れてしばらくして父さんは再婚した。
「今日から悟飯のかあちゃんになる人だ」と言われ紹介されたその人はボクより15歳年上で、若くてとても綺麗な人だった。
「こんにちは、急で驚いているよね……
無理にお母さんなんて呼ばなくてもいいから、徐々に慣れていってくれると嬉しいな、よろしくね」
「は、はい……」
優しく微笑み差し出された手は握れば柔らかくて細くて、折れてしまいそうだと思う反面、とても暖かく感じた。
それがボクと母さんの出会い。
母さんはボクを本当に自分の子どものように可愛がってくれて、ボクのミスで父さんが死んでしまった時も大丈夫と優しく抱き締めてくれた。
しばらくは母さんと二人で暮らしていて、ボクは中学生の頃から母さんといるとドキドキして胸がぎゅっと苦しくなった。
母さんが父さんの話をしていると胸の痛みが増して苦しくなった。
「母さん」
そして今も、胸の鼓動は早まるばかりでドキドキとうるさく苦しい。
ボクはこの痛みの理由を知っている。
「悟飯、どうしたの?
浮かない顔して、高校で何かあった?」
心配そうに顔を覗き込む母さんはボクよりも年上なはずなのに可愛らしく幼く見える。
「母さん、ボクここがずっと苦しくて痛いんです。」
ぎゅっと胸のあたりを握り胸の痛みを訴える。
「え?大丈夫?
体調が悪いの?病院行った方が……」
「いえ、大丈夫です。
体調が悪い訳ではないですから……」
「そっか……」
眉を下げ心配した顔でボクを見つめてくる母さん。
すると背伸びしてぎゅっとボクを抱きしめてくれる。
「あんまり無理しちゃ駄目よ、辛かったら母さんが相談にのってあげるから」
「か、母さん……」
そっと抱きしめ返すと背中をポンポンと優しく撫でられる。
きっと母さんはボクの気持ちを知ってもこうして母さんとしてボクに接してくるのだろう。
ああ、やっぱり。
ボクはあなたが好きなんだ。
言葉に出来ない言葉を心で呟きそっと押し殺した。